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「やはり覚えていらっしゃらないんですね。
私たちは初対面ではありませんよ」
俺は敢えて意地悪に勿体ぶった言い方をする。
「え…と、あの、どこで… ?」
困った紬が、おずおずと尋ねる姿が可愛くて、俺は思わず笑ってしまった。
「じゃあ、それは今日の宿題に
しましょうか」
「え?」
「パーティが終わるまでに思い出せれば、
あなたの勝ち。
思い出せなければ、私の勝ち。
負けた方は勝った方の言うことをなんでも
ひとつ聞く。
どうです?」
俺は紬の顔色を伺う。
目を泳がせて困っているのは、ありありと分かった。
けれど、ここぞとばかりに俺は畳み掛ける。
「異存はありませんね?」
「え、あ、でも… 」
「ご希望なら、例えばそこの商業施設の
一等地にあなたのお店を家賃無料でオープン
させる…とかでもいいですよ」
一瞬で紬の目が点になる。
「あそこの一等地って、家賃ご存知ですか?
簡単に払える額じゃありませんよ」
もちろん知ってるよ。
ここは俺の開発本部長としての初仕事なんだから。
「大丈夫ですよ。私なら払えます。
どうですか? この勝負、乗りますか?」
「私、お金ありませんから… 」
勝った時のことより、負けた時のことを考える。
紬は、堅実に生きてきたんだな。
「それは失礼ながら存じてます。
ですから、あなたには、金銭的な要求は
しない事にします。
それなら、大丈夫ですよね?」
「はあ… 」
俺の押しに負けた紬は、頷いた。
頷いたということは、今は彼氏はいないんだな。
子供の頃から心根が真っ直ぐだった紬は、彼氏がいたら絶対にこんな恋人役みたいなことは引き受けないはずだから。
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