act.11 嵐の始まり

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『どうしたの? 何かあった?』  どうにか縋るように手摺りを握る。  時間帯にしては空いている車内から推し量るに、どうやら下りの電車に乗ったらしい。 「たす……けてくれ、父さんと母さんが……」  口に乗せた途端、ついさっき家で見たばかりの光景が脳裏にまざまざと蘇る。 『緋凪君?』  促されても、迷う。続きを口にしたら、認めることになってしまう。それが怖い。  緋凪が認めようが認めまいが、二人がもうこの世にいないことは動かせない事実だというのに、目の前で見たのに信じたくなかった。何より、自分が二人を置いて一目散に逃げ出した事実を認めたくない。  不意に脳内を激しい混乱が襲い、駆けている時よりも息が上がる。  座り込んだら二度と立ち上がれない気がして、緋凪は手摺りを握った手に力を込めた。 『……緋凪君、落ち着いて。今どこ?』  今どこか、という問いにだけ反応して、緋凪は改めて車内を見回した。行き先がスクロールする車内の電光掲示板の文字が行き過ぎる。 「……次……岩海(いわみ)台……」 『そっか。ちょっと待って……品川まで出られそう?』 「分からない。追われてるんだ」 『どういう状況なの』 「……俺……俺が多分……」 『うん。何?』 「と、父さんと……母さんを……こ、殺した筋書きになってる」
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