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act.12 危機局面
考えてみれば、どういう冗談だろうか。
“俺が父さんと母さんを殺した筋書きになってる”――口に乗せてみても有り得ないと分かるのに。けれども、どう考えてもそうとしか思えなかった。
“千明緋凪! 殺人の現行犯で逮捕する!”
井勢潟はそう言っていた。
あの状況を見たら、彼でなくても緋凪が父と母を殺したと思うだろう。緋凪には身に覚えがまったくないのだが、あのナイフには自分の掌紋も指紋もこれでもかという勢いで付いているに違いない。
ついでに言えば、家には防犯カメラなんてハイテクなモノは付いていない。どう頑張っても、緋凪が犯人に祭り上げられることになる。捕まればそこでジ・エンドだ。
目眩がした。気が遠くなりそうだが、暢気に気絶している状況でもない。何とか――何とかしなくては。
『――ん。緋凪君?』
耳に聞こえる呼び掛けに、我に返る。
『緋凪君、大丈夫?』
「……何とか……」
『詳しい状況はあとで聞くよ。ひとまず今は合流しよう。谷塚さんには連絡した?』
「……繋がらなくて」
『じゃあ、皓君には?』
「まだ……」
『そっか。分かった。じゃ、緋凪君は皓君に連絡取って。僕は朝霞さんに知らせる。朝霞さんに連絡付いたら、僕か朝霞さんから捨てアドに連絡入れるから』
「うん……」
『気をしっかり持ってね。大丈夫だから』
「ああ……」
『取り敢えず、緋凪君は品川に向かって。僕か朝霞さんが君を拾えるように動くから』
「分かった……ありがとう」
宗史朗のいつもと変わらぬ口調を聞いていると、波立っていた思考は少しずつ落ち着いて来た。それを宗史朗も感じ取ったのだろう。『じゃ、一旦切るからね』と言い置いて通信を終えた。
緋凪も自分のスマホの画面をタップする。
もう、マナー違反云々は考えられず、次に皓樹の番号に連絡するが、こちらは留守番電話になっていた。
仕方なく、谷塚、皓樹、朝霞の非常時用の捨てアドに、それまでの経緯をしたためて送信する。それから、今いる場所から品川へ行くにはどう電車を乗り継ぐべきかを検索した。
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