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「いや。東風谷署の正式な手配掲示板だよ」
「何だって?」
言いながら、緋凪は楠井の持っていたスマホを引ったくる。この場にパソコンがないのが痛い。ちゃんと調べれば、この情報のページが嘘か本当か分かるだろうに、このスマホで見る限りでは、緋凪の写真入りで掲載された手配内容は、本物としか思えなかった。
トップへのリンクをタップすると、東風谷署の公式ページへ戻る。試しに画面を切り替え、検索ホームページから東風谷署を検索し、手配ページへ跳ぶと、やはり緋凪の手配のページへ行き当たった。
「……マジかよ……」
悪い冗談だろ、という文章が脳裏を通過する。
時刻は既に七時半。家を飛び出して来たのが何時頃か正確には分からないが、現行犯だからという点を差し引いても、こんなに短時間で指名手配が回るものだろうか。
「無実だって言うなら、きちんと証明しよう。逃げ回ればそれだけ不審を深めるだけだよ」
「どうやって!」
反射でまたも大声が出る。緋凪は慌てて自身の手で口を塞ぎ、声量を抑えて続けた。
「明らかに警察のでっち上げだぞ? 俺は気絶させられて、気が付いたら両親は死んでて、凶器と思しきサバイバルナイフは俺の手に握らされてた。家には防犯カメラもない。どう頑張っても俺がやったことにしかならない状況だ。いくらあんたが思い直したからってどうにかできる状況じゃなくなってんだ、中坊の俺にだってそんくらい分かる!」
「だから逃げるのかい?」
「逃げなかったら死ぬだけだ」
「バカな。いくら何でもそれはないよ。ちゃんと調べれば君がやったんでないことくらいすぐに分かる。ね? 俺と行こう? 大丈夫だから」
「もう大丈夫な状況なんて通り過ぎたよ!」
「いい子だからだだコネないで」
肩を抱え込むように抱き寄せられて、覚えず背筋に寒気が走る。
「離せよ!」
「君の言う通りだ。俺は妻子の為に小谷瀬の狗になった。今もそうなんだ、頼むよ。君を連れて行かなかったら、妻と娘が殺されるんだ。君の両親はどう頑張ってももう戻らない。だったら、まだ生きている俺の妻と娘を守る為に君が犠牲になってくれたっていいはずだ、違うか?」
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