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実際、謝罪会見をして『二度とこのようなことがないよう、真摯に対処して参ります』などというお決まりの文句を言って、反省の姿勢を見せたところで、一度ネットの海に出てしまった写真や情報は、回収・削除は実質永久に不可能なのだ。世間だって、『今後の対応』とやらを見守るしか術はなく、被害にあった人間に同情することくらいしかほかにやれることがない。それを、向こうもよく分かっているのだ。
一つ、舌打ちを漏らす。次の電車が到着する一分前に、元いたホームへ降りながら、緋凪は皓樹にもう一度連絡を取った。
『……もしもし』
「皓か?」
『凪……』
応答を聞いて安堵したのも束の間、答えた声は、どこかおかしい。
「皓?」
言いながら、緋凪は眉根を寄せる。何かあったのか、と問おうとした時、皓樹の声が『どうしよう、俺どうしたら』と続けた。
「何だよ、どうした?」
『おやっさんが……おやっさんが』
「おやっさんて……谷塚のおっちゃんか? どうかしたのか?」
『どうしよう、どうしたらいい』
「落ち着け、皓。まず深呼吸しろ」
緋凪自身、抜き差しならない状況だというのに、助けを求めたはずの相手を先に宥める羽目になる。しかし、相手にまず落ち着いて貰わないことには話もできないし、あっさり見限って『掛け直す』というのも薄情だ。
緋凪に言われた通り、深呼吸でもしているのか、向こうの沈黙が続く。その間に、次の電車が来た。
緋凪は、皓樹の応答を待つ間に乗り込み、できるだけ乗客の少ない車両を探して歩き出す。
結局先頭車両まで来て、足を止めると同時に、『悪い』と耳元に応答があった。
「おやっさんがどうかしたのか。訊いて大丈夫か?」
『……今さっき……ネカフェの近所にある公園で……な、……亡くなってるのが発見されて……』
「ええっ!?」
反射で頓狂な声を上げてしまい、緋凪は慌てて口元を押さえる。車内に目を投げると、こちらを見ていた数人の乗客は、さり気ない振りで緋凪から視線を外した。
音量を抑えるよう意識しながら、緋凪は口元を覆って「どういうことだよ」と問いを重ねる。
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