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『分からねぇんだ。宗さんにネカフェの近くまで送って貰って、730のブースに戻ったらその前に警官がいて……ここに住んでる谷塚晃史さんを知ってるかって訊かれて……一応息子みたいなモンだって答えたら、き、今日の朝……公園で遺体になって発見されたって……』
緋凪は、“大丈夫か”と問おうとして、唇を噛んだ。大丈夫な訳がない。仮にも、養父だった人を突然失くしたのだ。訊かなくても分かることを訊くのは、たった今開いたばかりの傷口に、容赦なくマスタードでも擦り込むようなものだ。
そんな精神状態の彼に、電話した用件を――東風谷署のホームページへ侵入して緋凪の手配記事を削除して欲しいと――打ち明ける訳にはいかなくなった。
自分でどうにかしなくては。
(……それにしても)
このタイミングで、緋凪の両親だけでなく谷塚まで命を落とすとは、あまりにもできすぎている。これも、小谷瀬の差し金だろうか。
『……凪』
「何」
『……俺……今、警察から出たんだけど』
「警察? どこの」
『ウチの……ネカフェの住所の管轄で、久和北署。俺の身元も洗われてさ、どうも……ヤバい雰囲気だったから』
「ヤバいって何が」
今現在、緋凪自身かなりヤバい状況だ。心当たりが多過ぎて、皓樹が言うのがどの“ヤバい”なのか、見当が付かない。
『俺、実は家出少年なんだよ。実の父親の虐待に耐え兼ねて逃げ出してストリートチルドレンになったってヤツ。母親は俺が九歳ん時に俺をDV夫の人身御供に逃げ出して、以来会ってない。もちろん、居場所も知らないし。このままだと最悪一度親父ん所に帰されるから……当分姿眩ますわ』
ある意味、皓樹は大丈夫と言えなくもない、と緋凪は思い直す。
人間、本当に非常状態に置かれたら、身内を失くした悲しみにのんびり浸る暇はないと、緋凪自身痛感している。
『落ち着いたら、捨てアドに連絡する。宗さんと朝霞さんにもよろしく言っといて。じゃ』
必要なことだけ言って、皓樹の通信は途切れた。
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