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act.13 three years later
(……やっぱり大丈夫じゃないってことだな)
緋凪は、耳に当てていたスマホをノロノロと下ろしながら脳裏で呟く。
通常なら、緋凪から来た連絡なのだから、用件を訊くだろう。けれども、最初こそ動転して、誰かに状況を聞いて欲しい様子だった皓樹は、緋凪と言葉を交わす内にあっという間に冷静さを取り戻した。
そして、自分の状況だけ整理して通信を切ってしまった。
その上、彼は養父である谷塚の敵討ちや、死の真相を探ることより自分の身の安全を優先した。
けれども、それを薄情だと責める気にはなれない。緋凪だって、たった今さっき、両親を残して逃げ出して来たのだから。
いつしか待ち受けに戻った画面のスマホに目を落として、緋凪はそれを再度操作した。
そして、宗史朗と朝霞のアドレスに連絡を入れる為に開いた自分のアドレスに、彼らから連絡が入っているのに気付く。
『待機完了。いつでも連絡可』
その短い文章を読んで少し迷った末に、緋凪は谷塚と皓樹の状況と、ついさっき楠井に遭遇したことをしたためて送信する。それだけ済ませると、頭が妙にすっきりしてしまった。
運転席のすぐ後ろの壁に背を預け、ぼんやりと窓の外を眺める。
手近な所は高架下や住宅街が闇に沈んで見えたが、遠方は、黒く塗りつぶした場所に、色とりどりの発光する宝石をぶちまけたようになっている。
これからどうするのか考えなくてはならないのに、頭がうまく働かない。どこか――脳内の一部が麻痺してしまったような気がした。
***
一つ目の乗換駅――逢津名台駅で降りたあと、緋凪は一つ深呼吸して気を引き締め直す。とにかく、朝霞か宗史朗と落ち合うまで、気を抜いてはだめだ。何があるか分からない。
連絡通路を通ってホームを移動し、碩水茶屋駅行きに乗り込む。そこで乗り換えれば、品川まではもうすぐそこだ。
緋凪は全身で緊張しつつ、キャップの鍔を前にし、目深にかぶり直した。直後、ボトムのスマホが震える。
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