act.13 three years later

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「ッ……!!」  ヒットした向こう臑は弁慶の泣き所とも言われる急所だ。流石のプロも堪らず襟首を離して蹲るしかない。  自由になった瞬間、緋凪は猛然とダッシュした。一瞬、武器を叩き落としてからのほうがいいかと思ったが、即座にその考えは捨てた。  こういう状況に慣れない自分には、欲も迷いも命取りだ。  とにかく、命を持ったまま朝霞たちと合流する。それが最優先だ。  階段を駆け上がって、周囲に目を走らせる。しかし、焦るほどに目的とする品川行きに乗るのにどのホームへ行けばいいのかが分からない。仕方なく改札へ走り、駅員に訊ねた。  教えられたホームへ走るが、電車はまだ来ていない。案内の出ている電光掲示板を見ると、電車が来るのは五分後だ。 「くそっ……!」  覚えず、悪態が漏れる。こんな状況の五分は永遠にも等しいが待つしかない。  やはり全力で警戒しながら緋凪は階段の裏側の空間へ身を隠す。ボトムのポケットへ手を伸ばし、繋ぎっ放しにしていたスマホを耳に当てた。 「……朝霞、聞こえるか」 『聞こえるわよ。今まで何してたのかはほとんど分からなかったけど』 「悪い。次の追っ手に捕まってた」 『大丈夫?』  問うたのは、宗史朗の声だ。どうやらスピーカーフォンの状態にしているらしい。 「何とか撒いて来た。だけど、次の品川行きが来るまであと五分弱ある」 『凪君。あなた、確かお祖父様がイギリスにいるんだったよね』  出し抜けに話題が転がった気がして、緋凪は眉根を寄せた。が、取り敢えず頷く。 「ああ」 『もしそこで捕まりそうになったら、駅から出て大使館を目指しなさい。あたしたちにいちいち連絡しなくていいから』 「大使館?」 『そう、イギリス大使館よ。今の時間帯、入れて貰えるかどうかも分からないけど、身分証は持ってる?』 「財布は持ってるけど、学生証は家だ。パスポートも」 『保険証は?』 「ある」 『そう、よかった。英語は話せるのよね?』 「ちょっとだけ」 『OK。上等よ。万が一に備えて、道々大使館へのルートは検索しておいて。皇居のすぐ傍、最寄りは半蔵門駅よ』
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