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「ッ……!!」
ヒットした向こう臑は弁慶の泣き所とも言われる急所だ。流石のプロも堪らず襟首を離して蹲るしかない。
自由になった瞬間、緋凪は猛然とダッシュした。一瞬、武器を叩き落としてからのほうがいいかと思ったが、即座にその考えは捨てた。
こういう状況に慣れない自分には、欲も迷いも命取りだ。
とにかく、命を持ったまま朝霞たちと合流する。それが最優先だ。
階段を駆け上がって、周囲に目を走らせる。しかし、焦るほどに目的とする品川行きに乗るのにどのホームへ行けばいいのかが分からない。仕方なく改札へ走り、駅員に訊ねた。
教えられたホームへ走るが、電車はまだ来ていない。案内の出ている電光掲示板を見ると、電車が来るのは五分後だ。
「くそっ……!」
覚えず、悪態が漏れる。こんな状況の五分は永遠にも等しいが待つしかない。
やはり全力で警戒しながら緋凪は階段の裏側の空間へ身を隠す。ボトムのポケットへ手を伸ばし、繋ぎっ放しにしていたスマホを耳に当てた。
「……朝霞、聞こえるか」
『聞こえるわよ。今まで何してたのかはほとんど分からなかったけど』
「悪い。次の追っ手に捕まってた」
『大丈夫?』
問うたのは、宗史朗の声だ。どうやらスピーカーフォンの状態にしているらしい。
「何とか撒いて来た。だけど、次の品川行きが来るまであと五分弱ある」
『凪君。あなた、確かお祖父様がイギリスにいるんだったよね』
出し抜けに話題が転がった気がして、緋凪は眉根を寄せた。が、取り敢えず頷く。
「ああ」
『もしそこで捕まりそうになったら、駅から出て大使館を目指しなさい。あたしたちにいちいち連絡しなくていいから』
「大使館?」
『そう、イギリス大使館よ。今の時間帯、入れて貰えるかどうかも分からないけど、身分証は持ってる?』
「財布は持ってるけど、学生証は家だ。パスポートも」
『保険証は?』
「ある」
『そう、よかった。英語は話せるのよね?』
「ちょっとだけ」
『OK。上等よ。万が一に備えて、道々大使館へのルートは検索しておいて。皇居のすぐ傍、最寄りは半蔵門駅よ』
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