act.13 three years later

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「分かった。でも何で大使館?」 『もういざとなったらそこに守って貰うしかないでしょう。聞いたことない? 亡命を希望する人が大使館の敷地に入った時点で、国の追っ手でも容易に手は出せなくなるって話。大使館の敷地はイコールその大使館の国の領土なのよ。治外法権が適用されるから』 「や、それは知ってるけど……」  なぜ大使館に匿って貰うなんて発想になるのかが分からない。すると、朝霞が焦れた口調で言った。 『だから凪君、イギリスに身内がいるんでしょ? あなた、確かクオーターだったよね』 「それだけで匿って貰えるか?」 『一か八かよ。凪君、今小谷瀬陣営に捕まったら一発アウトよ、状況分かってる?』 「分かってるよ」 『だったら迷わないで。小谷瀬陣営だってどうせ権力の届く範囲は所轄の管轄内だけよ。万が一、警視庁に顔が利くとしても大使館まではごり押しできないと思う。あとでいくらでもフォローしたげるから、今は追っ手を振り切ることだけ考えなさい』 「……分かった」 『でも矛盾するようだけど、大使館を頼るのは最後の手段よ。本当にどうしようもなくなったらそこへ駆け込みましょう。でも今はまだその手段を頭に置いておくだけにして。あたしたちは品川で待ってる。携帯の電池、あとどれくらい残ってる?』  一瞬緋凪はスマホを耳から離し、残量を確認する。 「あと半分くらい」 『そう。できるだけ電源は入れっ放しにしといて。少なくともあたしたちと合流するまで』 「了解」 『じゃ、話は終わりましょう。何かあったらいつでも声掛けてよ』 「ありがとう」  通話状態のままのスマホを元通りボトムのポケットへ戻す。直後、ちょうど電車がホームへ滑り込んで来た。行き先は品川。緋凪は用心してそっと階段の裏側から目線だけで左右を確認する。  この時になって、緋凪は肝心なことに気付いた。追っ手の顔を知らないのだ。だが、それは今言っても仕方がない。  怪しい気配がないのを見澄まして、電車に乗ろうとしたその時、横から腕を引っ張られた。そのまま、階段脇の壁に叩き付けられる。一瞬意識が遠のきそうになるが、歯を食い縛ってどうにか現実に踏み留まる。
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