48人が本棚に入れています
本棚に追加
「分かった。でも何で大使館?」
『もういざとなったらそこに守って貰うしかないでしょう。聞いたことない? 亡命を希望する人が大使館の敷地に入った時点で、国の追っ手でも容易に手は出せなくなるって話。大使館の敷地はイコールその大使館の国の領土なのよ。治外法権が適用されるから』
「や、それは知ってるけど……」
なぜ大使館に匿って貰うなんて発想になるのかが分からない。すると、朝霞が焦れた口調で言った。
『だから凪君、イギリスに身内がいるんでしょ? あなた、確かクオーターだったよね』
「それだけで匿って貰えるか?」
『一か八かよ。凪君、今小谷瀬陣営に捕まったら一発アウトよ、状況分かってる?』
「分かってるよ」
『だったら迷わないで。小谷瀬陣営だってどうせ権力の届く範囲は所轄の管轄内だけよ。万が一、警視庁に顔が利くとしても大使館まではごり押しできないと思う。あとでいくらでもフォローしたげるから、今は追っ手を振り切ることだけ考えなさい』
「……分かった」
『でも矛盾するようだけど、大使館を頼るのは最後の手段よ。本当にどうしようもなくなったらそこへ駆け込みましょう。でも今はまだその手段を頭に置いておくだけにして。あたしたちは品川で待ってる。携帯の電池、あとどれくらい残ってる?』
一瞬緋凪はスマホを耳から離し、残量を確認する。
「あと半分くらい」
『そう。できるだけ電源は入れっ放しにしといて。少なくともあたしたちと合流するまで』
「了解」
『じゃ、話は終わりましょう。何かあったらいつでも声掛けてよ』
「ありがとう」
通話状態のままのスマホを元通りボトムのポケットへ戻す。直後、ちょうど電車がホームへ滑り込んで来た。行き先は品川。緋凪は用心してそっと階段の裏側から目線だけで左右を確認する。
この時になって、緋凪は肝心なことに気付いた。追っ手の顔を知らないのだ。だが、それは今言っても仕方がない。
怪しい気配がないのを見澄まして、電車に乗ろうとしたその時、横から腕を引っ張られた。そのまま、階段脇の壁に叩き付けられる。一瞬意識が遠のきそうになるが、歯を食い縛ってどうにか現実に踏み留まる。
最初のコメントを投稿しよう!