act.13 three years later

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 世間には、自身のように混血の人間でも、住んでいる国に馴染むように突然、成長過程で髪の色が変わる者の話をたまに耳にする。だが、緋凪の場合は違った。  生まれついた緋色の髪も、コバルト・ブルーの瞳も、十七になる今現在までそのままだ。  無意識に鏡に手を伸ばす。  鏡の中にいる、美少女と見紛う少年は、緋凪と同じように手を伸ばした。細い指先が行き当たって触れた場所は、固くて冷たい。 (……何も変わってない)  胸の内で呟く。  変わったのは、緋凪の姓と身長と、生活環境くらいだ。ほかには何も変わってはいない。  春日を殺した真犯人のことも、両親と谷塚を殺した人間も、未だ分からず終いだった。  分からないということは、その真犯人は今も変わらぬ日常を謳歌しているということにほかならない。  鏡に手を当てたまま、きつく拳を握る。  結局あのあと、所轄の東風谷署はもちろん何もしてはくれなかった。ただ緋凪に嫌疑を掛け、緋凪が両親を殺した真犯人だと言い張り、緋凪を取り調べようと頑張っただけだ。  緋凪に対して正式な取り調べが行われずに済んだのは、朝霞の提案通りイギリス大使館に助けを求めた結果、彼らが介入してくれたからだ。  一所轄の一事件にわざわざ大使館が介入するなんて、と最初は突っぱねていた東風谷署も、それこそ国際問題に発展するのを恐れた警視庁の圧力で、沈黙せざるを得なかったらしい。  イギリスの祖父母は事件後、いたく孫息子の身を心配し、しきりにイギリスに移住するよう緋凪に促してくれた。  その提案に、緋凪も心が揺れなかったと言えば嘘になる。湖水地方の羊牧場で、のんびり何も考えずに暮らせたら、きっと楽だろう。  けれども、両親があんな異常な死に方をして、それを忘れられる訳がなかった。どうしても、真相を突き止めなければ前へ進めない。 “それは警察の仕事だよ。お前がやるべきことじゃない”  事件後、日本まで来てくれたヴィルフリート祖父と巴祖母はそう言って、どうにか緋凪を宥め賺し、イギリスへ連れ帰ろうとしていた。
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