act.13 three years later

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“その内、必ず日本警察はフィナとハルヒの無念を晴らしてくれるから。だから、私たちと一緒にイギリスに行こう?”  ちなみに、フィナとは母のミドルネーム“セラフィナ”の愛称だ。  祖父母たちは人が良すぎる。故に、彼らが心からそう言っているのはよく分かった。  けれども、日本警察がその職務を忠実にこなしてくれると信じるには、緋凪はとっくにその裏側を見過ぎていた。  自分の不祥事を隠す為ならどんな汚いこともし、一般人を犠牲にする――それが、緋凪の知る警察組織の有り様だ。  警察は弱者を、一般人を守ってなどくれない。公権力を持った暴力団であり、権力を持っているだけ暴力団よりもタチが悪い――  重い溜息を吐いた緋凪は、唇を噛んで蛇口を捻り、湯を止めた。  夢見が悪いといつもこうだ。昔のことを取り留めなく考えては、真相に早く辿り着きたいと願い、中々手が届かない現実に歯噛みする。  既に一度は殺人の嫌疑を掛けられた身だ。いっそ、正当な裁きも証拠もかなぐり捨てて、本当に真犯人を殺してやりたいとも思う。  はっきりとした物証がないだけで、犯人の目星は付いているのだ。相手を殺すだけの技術も、痕跡を残さない方法も知っている。  思い切って行動に出られないのは、こんな状態になっても結局自分が天涯孤独でないからだろう。  厄介なことに、加害者家族がどういう理不尽な目に遭うかまで、緋凪はよく知っていた。 (……面倒臭ぇな)  ポツリと胸の内で呟きながらバスルームを出て、乾いたタオルで手早く身体を拭いていく。 (……いっそ、サイコパスになれりゃ楽なのに)  春日や家族を殺した犯人のように、本当の自己中になれればどれだけ楽だろう。何も考えなくていい。自分が世界の中心でいれば、それでいいのだから。  下着とボトムを身に着け、ふと目を上げると、洗面所の鏡から自分の顔が見つめ返している。  再度、思考がループに陥っていることに気付いて、緋凪は今日起きてから数え切れないほど吐いた溜息を、また一つ落とした。
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