act.14 彼女の来訪

2/10
前へ
/175ページ
次へ
「どこに気ぃ遣ってんだか」  吐息混じりに返して肩を竦めたものの、緋凪は気を遣われたのかを何となく悟っていた。大方、うなされてるのを垣間見られたのだ。  それならそれで、早く悪夢から救ってくれればいいものを、そうしたらしたで多分そのあとの対応に、朝霞自身が困るから放置を選んだのだろう。 (……それって結局、気ぃ遣われてんのか遣われてねぇのか……)  はーっ、と何度目かで朝から疲れた溜息を吐きながら、緋凪はキッチンに回る。細口ドリップポッドに水を入れ、火に掛けた。 「コーヒーだけでも淹れるけど、宗史朗も飲む?」 「わあ、いいの?」 「まあ、俺の寝坊のトバッチリ食わせたみたいだから、今日は無料で淹れてやる」 「わーい、ありがと」  皮肉混じりの言葉にも素直に喜べるのが、この男の長所だと思う。 「ところで宗史朗」 「何?」 「あんた、叩き起こされたって言ったけど、今日仕事は?」  三年前の事件のあと、宗史朗は本人の希望通り警察学校へ進み、今は刑事として働いている。佳月の飲酒運転に対する疑いだけは、ドライブレコーダーの映像・録音と、周囲の友人知人の証言で晴れたからだ。  ついでに言えば、車への細工されていたかも知れない件も、ドライブレコーダーにバッチリ映っていたらしい。もっとも、犯人の人相などは未だ分からないが。  所属は、このカフェもある地域の所轄・知來(ちな)東署一課らしい。 「お休み。キチョーな朝寝坊できる日だったんだけどね」 「へーへー、すいませんー」  ベッ、と舌を出しながら、湯が沸くのを待つ間に、サーバーとドリッパーを用意する。ドリッパーにペーパーフィルターをセットしてから、人数分のコーヒー豆を挽いて、フィルターに放り込んだ。 *** 『理不尽な困り事、相談に乗ります』――  その文言を、メニューの一番端っこに備えたカフェ兼古書店が開店したのは、二年ほど前のことだ。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加