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「何だっけ?」
「何だっけじゃねぇよ。金だよカ・ネ!」
ゴツい親指と人差し指が、輪っかを作って緋凪の目の前で上下に揺れる。同時にリーダーは緋凪の肩を抱え込んだ。
「オレたち締めて七人が豪遊できる金だよ。二十万用意しろって言ったろ?」
ちなみにもちろん、『七人』の中に緋凪は入っていない。敢えて言うなら、財布代わりに引きずり回される可能性もなくはないが。
「何で俺がそれを用意しなきゃなんないのか、全っ然理解できねぇんだけど」
緋凪は、近距離に来たその顔に、冷ややかな流し目をくれる。その瞳は、日本人には珍しいコバルト・ブルーだ。
緋凪にはどうしようもないDNAのなせる技だが、この瞳も、癖のない緋色の髪も、不良少年たちの気に障るらしい。
「ああ? 今何つった?」
定番な台詞を吐いたリーダーは、肩を抱く腕に力を込めて、緋凪を正面から見据えた。
端から見れば、お世辞にも端正とは言えない厳つい顔の男と、整いすぎた美貌の少女――いや、こちらも少年が、今にもキスせんばかりの体勢で見つめ合っているように取れるだろう。
あと少し相手が緋凪の身体に回した腕に力を込めて抱き寄せれば本当に唇が触れそうな距離に、思わず眉根が寄る。
緋凪は言葉で答える代わりに目を細めて相手を見つめ返すと、やや強引に身体を後ろに引いた。
なよやかな美少女しか見えない一年坊主の抵抗に、リーダーは一瞬目を見開く。緋凪は構わずに素早く足を肩幅に開いた。直後にはその拳が相手の鳩尾に食い込んでいる。
空気を叩き出されるように呻いたリーダーは堪らず緋凪から手を離し、自分の腹部を抱え込んだ。
背中を丸めた相手の肩先に、続けて容赦なく踵を落とす。
周囲の六人は、瞬時唖然としていた。何しろぱっと見、弱々しい美少年が、易々と自分たちのボスをいなしてしまったのだから。
だが、すぐに気を取り直したのか、
「てめっ……!」
「よくも秀さんを!」
と口々に言った少年たちは、一斉に緋凪に向かってくる。
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