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(ボスを見捨てないだけまだマシか)
緋凪は無言のまま膝を軽く曲げると、宙返りの要領で跳躍した。小柄な身体が宙を舞う。空中で身体を捻って囲みの外へ着地し、きびすを返した。
外部から邪魔が入らないようにという要らぬ配慮から施錠されていた鍵を解除し、扉を開けて校内へ戻る。そこから下に誰もいないのを確認すると、緋凪は階段の手摺りを身軽に飛び越えた。
踊り場に着地した途端、「こらっ!」という怒声が飛んで、緋凪は一瞬階段からずり落ちそうになる。
「学年とクラスと名前は! どっから飛び降りた!」
男性教諭の叱責が主旋律のように、伴奏――もとい、『秀さん』の舎弟たちの鬨の声が頭上から響く。
慌てて階段を駆け下り、男性教諭の脇をすり抜けた。
「おい、こら!」
「悪い、先生! 俺に説教したかったら後ろの不良連中、先にどうにかしてくれよ!」
全力で走りながら言い捨てるが、男性教諭まで不良連中の先頭に立って緋凪を追い掛け始める。
「廊下を走るな! 第一不良連中に絡まれるのはお前の出で立ちにも原因があるんじゃないか!?」
「走るなって言いながら先生だって走ってんだろ! ついでに言えば髪も目も自前だ! 黒のカラコンして髪の毛黒く染めろってのか!?」
「違反車を追い掛ける時はパトカーの速度違反は違反にならない! それに、髪も目も自前だという証拠がどこにある! 早く髪の色戻して青のカラコンを外せば済むだろう!」
(自前じゃねぇって証拠もどこにあんだよ、クソ教師が)
もう言い返す気にもならない文句を脳裏で呟きながら、溜息を吐いた。
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