Prologue

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 不良少年を背後に引き連れながら、そちらではなく緋凪を追い掛けることに一所懸命な教師にもウンザリする。  仮にも教師という立場にいる人間が情けない話だが、不良少年軍団を相手にしては(かな)わないのは分かっているのだ。だから、勝てそうなほうを必死になって思い通りにしようとする心理は、不良たちと変わらない。 (あーあーやだね。掛け値なしに本当のことしか言ってねぇのに、何だって疑われんだよ。じゃあ何か? 病院に行ってDNA検査結果でも持って来いってか? 検査費も出やしねぇクセに)  母親が日英ハーフなのだが、四分の一しか入っていないはずの英国人の血がなぜか外見――特に、髪と目の色に濃く現れてしまった。その為、欧米人旅行者に出くわすと必ず話し掛けられる。  けれども、はっきり言って英語は得意ではない。母方の祖父との会話だって、未だに細かいところは日本人の祖母と母頼みなのだ。その外見で英語ができないなんて嘘だろうという目で見られるのにも辟易している。  そこまで考えて、脳内の愚痴りが脱線してきているのに気付き、また溜息が出た。  今更止まったところで、教諭にこってり絞られた上にまた不良少年にも絡まれるのだ。ならばもう、三十六計逃げるに()かずだろう。  そう断じた緋凪は走る速度を上げ、器用に下校途中の生徒たちの合間を縫って、あっという間に追っ手を突き放す。  二階にある教室に駆け込み、自分の机で待機していた通学用のボストンバッグを引っ掴んでベランダに出る。下に誰もいないのを確認し、ボストンバッグをベランダから落とすと、自分もそのあとを追った。
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