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act.1 告白
「凪。いる?」
ノックと共に、在室を問う声が掛かる。
私室で机に向かっていた緋凪は、「開いてるぜ」と答えながらドアのほうを振り向いた。
同時に、静かに扉が開く。
顔を覗かせたのは、同居中の従姉・市ノ瀬冴映だ。
無表情に扉を押し開けた彼女は、「これ」と言いながらベッドに黒いエコバッグを置いた。緋凪も黙って立ち上がり、バッグを確認する。
中には、スニーカーが一足収まっていた。
「……サンキュ。いつも悪いな」
苦笑しつつ肩を竦めると、冴映は小さく首を振った。二つ分けのお下げに纏められた黒髪が、彼女の頭の動きに従って小さく揺れる。
胸元まで伸びた毛先は、まるでパーマを当てたような縦ロールになっているが、彼女のそれは天然パーマだ。だが、教師陣は信じてくれないらしい。
「それとこれも」
冴映は、手に持っていた何かを緋凪に差し出す。反射で出した手に乗ったのは、今時珍しい手紙だ。封筒に入ったそれが、何通かの束になっている。
「今日も靴箱に入ってた。確かに渡したから」
と冴映が淡々と続けた。
「返信するかは凪に判断任せるけど。相手からアクションがあったらちゃんと対処してね」
差出人の名前は全部女性のものだ。となれば、内容は読まずとも大体分かる。
自惚れるつもりは更々ないが、自分の顔は女性には受けがいいらしい。同性によるいじめ(という名の暴力)、からかいと同じくらいの確率で、女性からはいわゆる『愛の告白』をされるのは、緋凪の場合珍しくない。もっとも、異性からの告白を受けるようになったのは、小学校の高学年になった頃からだが。
「……面倒くさ」
投げるように言うと、冴映も眉根を寄せた。
「言っとくけどあたしが手紙を勝手に処分した、とか思われたらあたしのほうが面倒なことになるのよ。時々あんたの靴箱から下履き回収するの、がっつり見られてるんだから」
言いながら、彼女は髪を掻き上げるように指を耳に掛ける。その指先は、細くてしなやかだ。
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