act.1 告白

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 第一印象で人を判断しないという信念を持つ春日には珍しく、もう関わりたくない人種だと思った。  失礼でない程度に素っ気なく一礼し、きびすを返そうとすると、相手は素早く春日の進路を塞いだ。周囲には取り巻きと思しき少年たちも数人いる。 『この学園に通っててボクを知らないなんて有り得ないんだけど……』 『本当に知りません。どいてください』 『分かったよ。ボクの名前は小谷瀬臨。この学園の理事長の息子で、二年A組。さあ、君の名前と学年とクラスを教えて?』 『どうしてです?』 『どうしてって、わざわざボクが名乗ってあげたんだよ? 知ってるのに知らない振りするから、仕方なくね。こっちが名乗ったんだから君も名乗るのは当然の礼儀じゃないか』  唖然とした。  いきなり目の前に現れて人を嘘吐き呼ばわりした上に礼儀を口にするなんて、春日からすれば『頭のおかしい男』としか言いようがなかった。  黙ったままきびすを返そうとするが、後ろにも取り巻きがいる。そこから去ろうとしても、どうしても動けなかった。 『あの、帰る所なんです。通してくださいませんか?』 『じゃあ送っていくよ。家はどこ?』  馴れ馴れしく肩を抱き寄せられて思わず悲鳴が出掛けるが、どうにか呑み込んだ。 『セクハラで訴えますよ?』  目の笑わない笑顔で言って、肩に回った臨の手を捻り上げる。  思わぬ反撃に、臨のほうが悲鳴を上げた。 『なっ、何するんだよ!』  臨が(はじ)かれたように離れる。必然、囲みが崩れ、春日はその隙を逃さず猛然と廊下をダッシュした。 「……何するが聞いて呆れるな。初対面のクセに肩に手ぇ回すとか立派なセクハラじゃん」  吐き捨てるように言った緋凪は、ペットボトルの紅茶をやけ酒のように(あお)る。 「で? 当然それで終わりじゃなかったのよね?」  それを余所に冴映が淡々と続きを促すと、春日は疲れたように「うん」と頷いた。 『ねね。お兄ちゃんと付き合うことになったんだって?』  その翌日、これまた見知らぬ女子生徒から囁くように話し掛けられて、春日はまたも面食らった。
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