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Prologue
(……定番過ぎだよなぁ)
緋凪は、のんびりとそう脳裏で呟いて、チラと周囲に視線を投げた。
場所はと言えば、こちらも定番と言えば定番な、体育館の裏側――ではなく屋上だ。
学校という場所は、意外にも死角が多い。最近では世の中が物騒になって来た為、最低限、人が出入りする箇所や、廊下などには防犯カメラを付けるようになった。しかし、教室の中やら屋上にまでは取り付けていない。今、緋凪の周囲にいる少年たちもそれを心得ている。
そして教師陣は、校則で禁じていることは基本、子どもは守るものだと心底思っているのだから始末が悪い。
たとえば、出入り禁止にしている屋上には絶対に出ないと信じているのだ。鍵が掛かってるのだから出ようがない、なんて、大人の言うことに何でもホイホイ従うタイプの優等生になら通じる理屈である。
現に、緋凪の前を歩いていた少年は、鍵の掛かった屋上の扉の前で何やらやったと思うと、そのドアは簡単に開いた。少年が押さえたドアの外へ、リーダー格が足を踏み出す。
緋凪も、背後にいた少年に小突かれるようにして歩を進めた。
「さってと」
リーダー格の強面が、屋上の中程に来て足を止め、振り返った。緋凪を囲んでいた数人の少年たちもそれに倣う。
中学も二年か三年になれば、男の子なら急に背丈が伸び始めるものだが、緋凪の周囲の者たちはちょっとその範疇を越えていた。
特にリーダーは、『見たとこ健康そうだし、義務教育なのに留年したのか?』と訊きたくなるような図体だ。身長百四十五センチで、体格も華奢な緋凪と比べると倍以上ある。
「千明緋凪だっけ? 頼んだモン、持ってきたよな?」
リーダーは、厳つい輪郭の中にある鋭い瞳を光らせて、手下の囲いの中心にいる緋凪に歩み寄った。
こんな時、普通の少年なら震え上がるだろう。声も出せずに『頼まれたモノ』とやらを黙って差し出すに違いない。
しかし、緋凪は実にゆったりと構え、リーダーを見つめ返した。
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