深紅のゼラニウム

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二人が心配するほど、僕はひ弱じゃあなかったらしい。 全くの元気とは言えないが、唯一体育を大事を取って見学するくらいで他の授業は受けることができた。 ……そんなこんなで時間は流れ、最後の授業。 「そういえば橘君、入院してたんだって? もう大丈夫なの」 隣に座る女子がそっと話しかけてくれた。 珍しい事だ。最近じゃあ、こんな喋れないネクラ野郎を相手にしてくれる人はいなかったのに。 でも黙って頷く僕。 (ごめん……) せっかく話しかけてくれたのに。 僕はその子の顔を碌に見ることも出来ず俯いた。 「やっぱり少し、顔色悪いな」 前の席から振り返ったのは亮蔵だった。 どうやら彼は僕の前の席らしい。僕より背が高いから少し黒板見えにくい……。 「そっかぁ。無理しちゃダメだよ?」 亮蔵がこちらを見ているからか、うっすら顔を赤らめた彼女の目には多分僕の姿は映ってない。 ―――どうせ声をかけてくれたのも、彼に向けてのアピールなんじゃあないの。って性格の悪い僕自身が囁く。 (ほんと、この歪んだ性根何とかしなきゃなぁ) 我ながら救い難い。 そのあと先生の声が飛んできて、慌てて彼は前に向き直った。 (ん……?) 机の上に何やら置いてある。 メモか。ノートの切れ端みたいな。広げてを見ると。 『一緒に帰ろ』 と意外に丸っこい文字で書いてある。 (直接言ってきなよ) 少し呆れながらその背中を見ると、チラリと首だけこちらを向けた亮蔵がニッと笑う。 無言で首を縦に振れば、小さくガッツポーズしてるのが分かった。 (みんな最初はこうだな) 新たな友情に胸を熱くするような綺麗な心なんて、今の僕には無かった。 今までもこうやって僕と仲良くしようとしてくれた人は居たんだ。そんなに多くはなかったけど。 でも全て途中で僕なんか相手にしなくなった。 そりゃそうだよね。どれだけ話しかけても返してくれない奴と友達でいてくれる人なんて、ね。 (それなら最初から放っておいてくれたらいいのに) いちいち戯れに手を出して捨てる、彼らは僕を玩具か捨て猫と勘違いしてるんじゃあないかって思う自分と。 仕方ない自業自得だ、と諦め諌める自分がいる。 (また3人かぁ……) 朝は正直恥ずかしかったな。 まるで両親に手を繋がれて歩く幼児みたいだった。どちらも教室まで離してくれなかったし。 (憂鬱だな) ―――ノートをとるフリをして、ため息をついた。
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