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ヒガンバナ
それから1週間に何度か、僕は彼と二人きりで帰った。
侑花に用事があったりだとか、彼が彼女を撒こうと悪い顔をして提案して来た時だけ。
彼女も頬を膨らませて怒りながらも、僕が初めて友達を作った事を喜んでいるのか、最近じゃあまり何も言わなくなった。
「ほんと仲良しね」
リビングで彼との交換日記書いていると、呆れたように侑花が言った。
「良いじゃない。侑李がそんな仲の良い友達作ってくるなんて……ママ嬉しいわ」
母さんはそう言って、うっすら涙ぐんでいる。
(別にそんな大袈裟なことはないんだけど)
確かに亮蔵は珍しいやつだ。
僕なんかとあれから3ヶ月も一緒に行動して、ずっとついて回るんだから。
こっちは喋れないのに、向こうはまたあの良い声でペラペラ音楽みたいに話をしていてくれるし。日常生活でもクラスメイトと僕の通訳的な事もする。
筆談なら2人で意思疎通取れるし、それで馬鹿な話をして笑い転げるし。
……そうそう、この前僕が初めてクラスメイトの前で笑ったら皆驚いてたな。
そのあと彼らの何人かが、何故か亮蔵や僕の肩をバンバン叩いて『良かった』『良かった』とはしゃいでたっけ。
さすがに意味がわからなくて彼に聞いたが首を傾げられた。
「そういえば。先生にも言われたわ。『弟さん明るくなったね』って」
「あらまぁ」
侑花の言葉に、母さんは顔を綻ばせ微笑む。
何となくな居心地の悪さと、嫌な予感でペンを握る手に力が入る。
「これであとは学校で喋れるようになれば……」
「……ママ」
母さんに対し、少し咎めるような声を出す侑花。僕は案の定だと半分諦めのような気持ちでノートを目で追っていた。
(結局そこなんだよな)
親心が分からないほど僕は幼いわけじゃない。でも言われたら、求められたらやっぱり辛いのは我儘だろうか。
母さんはすぐに頭を弱々しく振って『ごめんなさいね』と小さな声で謝った。
(謝るのは僕だ)
でもいくら謝っても、僕の声は学校では出ない。
いっそうのこと、何かの病気でまるきり声が出せなくなっていた方が救われたんじゃないかって思う。
そうすれば皆『仕方ない』って期待しないでくれるだろう?
(なんて、日記に書いたら引かれるかな……)
今日も当たり障りのない事を書こう。
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