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休み時間、トイレに行った帰りだった。
「……ぉい」
「?」
すれ違い様に声をかけられた瞬間。
「ッ!」
「……無視すんなよ」
肩に強い衝撃と痛み、バランスを崩して倒れ込んだ。冷たく硬い床は骨にダイレクトにダメージを追わせた。
「橘、お前少し調子に乗ってねぇか?」
崩れた僕の前に立ち塞がるように立っていたのは、クラスメイト達数人で。
「喋れないくせに学校来てんじゃねーよ」
「っていうかほんとに喋れないわけ? フリしてんじゃねぇの」
「最近本当お前ウザいわ」
彼らから僕に降り注ぐ視線と罵倒の数々。嘲笑と侮蔑。怒り、蔑み、悦……綯い交ぜになった感情が土砂降りの雨のように容赦なく叩きつけられる。
「……お前なんか、うちのクラスに要らねぇんだよ」
「学校きてんじゃねーよ」
彼らの表情は何故か見えなかった。いや見ることを僕が拒否したのか。逆光の真っ黒な影に映った彼らの顔だけが浮かんでいるのだ。
頭は真っ白になっていた。先程までの温かくぬるま湯のような言葉や態度から一転、この仕打ちに僕の心がついていけていなかったのだろうと思う。
「譲治も迷惑してるってよぉ」
「転校生だからって、先生にお世話係任されて可哀想だよなぁ」
「本当、クラスのお荷物だって自覚しろよな!」
(ああ、やっぱり)
彼の名前だけが、耳にこびり付く。
そうだ。彼は転校生だった。だから……嗚呼そうか。
―――始業のチャイムが鳴り、いつの間にか彼らが居なくなっても。
僕はそこを動けなかった。
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