イベリス

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『今日は一人で帰る』 そう書いて、ノートをそのままに僕は立ち上がった。 「おいっ、どういうことだよ」 彼の声を背中に浴びながらも、僕は逃げるように教室を出て廊下を走った。 「コラ! 廊下は走らないっ!」 音楽の香椎先生の声も聞こえてきたが、止まるわけにはいかなかった。 (止まったら、止まったら) 多分泣いてしまう。そしてまたお荷物になってしまう。彼に、迷惑かけてしまう。心配させてしまう。 頬に勝手に流れて口に入るしょっぱい味に、更に込み上げてきて手の甲で強く顔を拭った。 「待てってば、侑李!」 僕なんかよりずっと速い彼の声がすぐ後ろからする。 僕は靴を脱いで、投げるように下駄箱に入れた。 外履きをつっかけるように強引に足をねじ込んで、そのまま外にとびだした。 (ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい) 心のうちで呟きながら。
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