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「ああ、お腹がすいた」  彼はずっと私に空腹をうったえている。  横にいる彼は、ずっと私の目を見ながらただ口を開いて懇願していた。 「もうずっと何も食べていないんだ、食べさせてくれ。お願いだ、食べないと死んじゃうよ」  食べ物なら目の前にあるじゃない。  それを食べれば良いのよ。 それ以外は必要ないでしょ。あら、食べないのね。 だったら、もう少し空腹でいてもらわなくっちゃ。  だから私は「お腹が空いた。食べたい」と言う彼に、優しく言い聞かせ続けるのだ。 「だめ」  そして。 「だったら待って」  こんな風に。 「もっと」  時間をはかりながら。 「もっと我慢してみて」  彼の顔色を観察しながら。  そうすれば喜んで目の前の料理を料理を食べてくれるはず。  そして、どれくらいか分からないけれど、やがて十分な時間が過ぎた。  私は彼に「もうそろそろ食べたくなったでしょ?」と、聞いたけれど彼はまったく反応を返さなかった。  首を傾げて私は独りごちる。 「おかしいわね、空腹は最大の調味料だって言っていたのに」  目の前で強烈な異臭を放つ料理と彼を見ながら、私はひたすら首を傾げ続けるのだった。 「初めてだからうまく作れなかったかもしれないわね。待っててもう一度作ってみるから」  私は再び、台所に散らかった調理道具を手に取った。
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