プロローグ ~ 港町ボーリの朝 ~

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プロローグ ~ 港町ボーリの朝 ~

   トーレの心はウキウキだった。  なぜなら、昨日の昼間に嬉しいことが立て続けに二つも起こったからである。  一つ目は、自分がまるまる三日間かけて手掛けていた『よろずストア・バントール』の大幅な改装を宣伝するための大きな看板の絵の製作が、期日の土曜日を前に何とかギリギリ金曜日の夕方に仕上がったことであり、自分としても時間をかけただけあって納得のいく出来映えであった。  二つ目は『よろずストア・バントール』の主人の一人娘キャサリーンに看板の出来を褒めてもらえ、いろいろと会話が出来たことで、さらに「トーレさんに折り入って頼みがあるの」という彼女からの言葉で、今日の土曜日の午前10時に『カフェ・ライトール』で待ち合わせていることである。  トーレは港町のボーリで毎週土曜の朝9時に開かれる市場に小さな花屋が出店することを思い出し、今朝は早起きして、一張羅の薄いグレーの背広と焦げ茶色の革靴でおめかしをすると、市場のはずれで店を開いている小さな花屋にやってきたのである。  花屋には5月の爽やかな季節だけあって、赤、黄色、ピンク、白、オレンジと、色とりどりで大きさも様々な切り花が店主の手で店頭に飾り付けられつつあった。  店主はロジーナという名前の30歳越えの女の人で、トーレが聞いた話では旦那は檸檬(れもん)農園を営んでおり、その檸檬農園を四分の一程花畑にしてもらい、日当たりの良い斜面で1年中何らかの花が咲くように育てているとのことであった。  そして、それらの花を今日の土曜日も朝市で売りに出しているのである。 「あら、おはよう、トーレ君。今日は早いわね?」  花屋店主のロジーナは目ざとく声をかけてきた。 「あ、、、おはようございます。ロジーナさん」  トーレは少し恥ずかしそうに答えた。 「今日はずいぶんと御粧(おめか)ししてるわね?どこかに出掛けるの?」 「ええ、ちょっと、バントールのキャサリーンさんと、打ち合わせで待ち合わせていて...バントールの店の改装のお祝いに花束を渡そうかと...」  トーレは少し口ごもった。 「改装のお祝い、、、そうなの?」  ロジーナは微笑みながら少し納得しかねるような口ぶりであったが___ 「じゃあ、今の季節にピッタリのピンクの薔薇のハイブリッド・ティーはどうかしら?」  そう言いながらピンクの薔薇を集め始めた。 「ところで、トーレ君。ご予算はいかほどで?」
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