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「あ、、、えーと25000リラで作ってもらいたいんですけど...」
普段、花束など買ったことの無いトーレは、店主にお任せという感じで答えた。
「あら、ずいぶんと張り込んだわね...そうね...」
そう言うとロジーナは薔薇やカーネーションを中心に切り花を集めだした...そして、
「じゃあちょっと、おまけして、こんな感じでどうかしら?」
ロジーナは、ピンクの薔薇と赤のカーネーション、白いカスミソウで可愛らしくもボリュームのある形に仕上げ、切り口に水を染み込ませた薄布を巻き、手で持つ部分には可愛いピンク色のリボンを巻いてトーレに手渡した。
「はい、薔薇とカーネーションの本数をちょっとおまけしといたわ。ボリューム出たでしょう? 日射しが強くなってきたから、花束を下に向けて持って、日光に当てないように注意してね?」
「ありがとうございます! ロジーナさん」
トーレは25000リラを紙幣で支払うと、朝市の準備に忙しい屋台の間を通り抜け、朝市が開かれている波止場の広場の端にある網をしまう小屋の前の丸椅子にゆっくりと腰を下ろした。
約束の10時まで、そこで時間をつぶそうと思ったが、ふと石畳の坂道の上を見上げると、一週間のうち2回は行くことのある港の大衆食堂『トリアン』が目に入った。
そして、入口の扉のところでモップを持って朝の掃除に取り掛かろうとしている一人の給仕の少女に気が付いた。
その少女の名前はアンゲラ__義務教育である高等学校を通常は5年間であるところを3年で切り上げて卒業し、去年の9月からは『トリアン』で働いているので、まだ17歳であったが、もう大分店の仕事には慣れたようであった。
トーレ自身も高等学校を3年で切り上げて卒業した後に、すぐに地元の左官塗装店に弟子入りし、今年で2年目の19歳である。
彼は『トリアン』で食事をするときに、アンゲラと毎回少し話をするが、それほど長く話したことは無かった。
アンゲラは、赤毛で、そばかすが少し、そして...ちょっと左足を引き摺っていた。
美人ではない...が、それなりに可愛く、気立ての良い娘であった。
トーレは仕事中の彼女に話しかけるのはちょっと気が引けたが、この小屋の表の丸椅子に座って花束など持っていると、店からは、いやが上にも目についてしまうので、自分から挨拶することにして、花束をぶら下げたまま坂道をゆっくりと登り始めた。
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