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「ああー⋯⋯」
「なんだそんなやる気の無いうめき声を上げて」
南北は体の力を全部抜いたかのようにぐたっとソファにもたれかかっていた。
「あー三田ちゃんこんにちは。いらっしゃい」
顔だけ向けられる。
「鍵空いてたぞ」
「えっマジで」
「気を付けろ」
「あい⋯⋯」
鍵を閉め忘れるほど疲れているとは、相当だ。
「何があったんだ一体」
「昨日は丸の内のお説教日だったんだよ」
「何だ」
「違うの違うのあたしが何かしたわけじゃないよ、最初は半蔵門で、そのあと何故かその場にいた銀座以外が巻き込まれた」
「⋯⋯はあ」
大変なんだなあと他人事に思いつつ、手に持っていたビニール袋を机の上に置く。
「なぁになぁに?」
ソファの背もたれから顔を出す南北。元気じゃないか。
「ポップコーン」
「やった!それにしても王道だね!」
「いいだろ、映画なんだから。ほらキャラメル味」
目をキラキラさせながら、受け取る。
「東西まだかなぁ」
「そろそろ来るんじゃない」
待ち合わせは1時。今は12時50分。東西なら大体5分前に来る。
私は、あくまでポップコーンのために遅めに来た。
「新宿さんが借してくれたんだよねー。3人で観なよって」
「え?」
「うん」
嫌な予感がする。少なくともジャンルは確定した。あいつ、腹の中真っ黒だから。
恐らく何も考えず昼に呼んだのだろうが、そこは英断だったと言わざるを得ない。
「よくわからないけどとりあえずホラーっぽい」
「⋯⋯はぁ」
やっぱりかあの鬼畜め。育ててやった恩を忘れたか。
もちろんだが超苦手だ。一人では絶対に無理。
「あたし、ホラーすっごい苦手なの⋯⋯だからお昼に呼んだんだよね」
てへっと舌を出す。
「三田っちも苦手そう」
「なんでわかるんだよ」
「わかるよー、何となく」
どうやら、ちゃんと考えて昼に集めたようだ。しかしそれもそれで英断に違いない。
「東西も得意じゃないの。だから、阿鼻叫喚の地獄絵図だね!」
「楽しそうにいうことかそれ」
でも、それはそれでいいかもしれない。
どうせ新宿は私を騒がせて遊ぼうとしたのだろうが、その目論見に反して楽しくなりそうだ。
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