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食餌
人参、サツマイモ、ズッキーニにブロッコリー。
アイツはいつも野菜を残すから、食べやすいよう1㎝以下に微塵切り。
水で薄めた牛乳で煮込み、野菜に火が通ったら茶碗1枚ご飯を混ぜて、ドリア風だ。
隣のコンロには1枚3000円の和牛ステーキ。
いつも頑張ってくれてるから、今日だけはこのくらい豪勢でも良いだろう。表面だけ焼いて、ややレアに仕上げ、ドリアもどきに沈める。
アイツは熱いのが苦手だから、皿に盛ったらしばらく冷めるのを待つ。
その間に自分の夕食準備だ。
僕の今日のメインはホッケの開き。あと、インスタントの味噌汁と白いご飯。ホッケは1枚298円の2割引きだった。
小さなガラスのテーブルに並べて、箸を取りにキッチンへ行き、さぁ食べようと振り向くと……ホッケとご飯がなくなってる。
誰かがホッケを誘拐した!
犯人は決まってる。
「こら、マツリ!」
開けっ放しのリビングドアを覗いて叫ぶと、黒い大きな毛の塊がパタパタと尻尾を振っている。
ホッケはもう頭も骨も既にアイツの腹の中だ。
「もー、ホッケは僕の夕食だったのに!」
……はぁーーーーっ…
盛大な溜め息をつくと、40kgの雄のシェパードは、耳を背中にペタッと付けて、尻尾を振って擦り寄って来た。
怒ったところで、食べてしまったものは仕方がない。
「代わりにお前の晩飯、僕が貰うからな!」
ぷりぷり怒りながら、スプーンを用意して、犬用に作ったドリアをテーブルに運んだ。
一口食べて…味が薄〜い。
でも1枚3000円の和牛は、流石に柔らかくて美味かった。
「今日はお前の誕生日だから奮発したのに…こんなことならホッケ2枚にすれば良かった。僕に和牛は高級過ぎる」
三十路シングルのしがない犬の訓練士。贅沢とは無縁の生活を、精一杯彩ってくれる相棒犬の誕生日。壁には彼と一緒に競技会で獲ったリボンやガウンが並んでいる。
ホッケの誘惑に勝てなかった相棒は、僕の膝に頭を乗せて猛省中だ。
仕方がないので和牛を一切れ鼻先に持って行くと、彼はチラッと僕を見てから遠慮がちに飲み込んだ。
1つ食べたらゲンキンなもので、ササッと姿勢を正してオスワリをする。
「……結局、お前にほとんど食われるんだよな」
味の薄い和牛ドリアを、相棒犬に譲る。僕が食べたのは、和牛ステーキ3分の1とドリアもどき半分。
夕食が終わると、今日も煎餅布団で相棒を抱っこして眠る。
少し肌寒くなってきた秋。
和牛+ホッケ分、発熱してもらわないと割に合わない……
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