SweetHeart

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「カイ、イシュタル女王陛下の在位五十周年記念祭のことなんだけどね」 封印を外された封筒を手に、ロウは息子に話しかける。 彼の、というか、我が国の、自慢の息子は海を見ていた。最近には珍しく、おしゃべり鸚鵡のルシエルが息子の肩にとまっている。 「ああ……」  一人の人間が、二十五歳で即位してから、五十年、玉座を守っている。  しかも女性だ。  この時代、まだまだ一生を家の中で過ごす女性が少なくないなか、イシュタル女王は七十五歳にしていまだ勢い盛んで、『高貴なる女性の中でも最も高貴なレディ』相手に、うかうかしてると、海賊すら身ぐるみ剥がれない。 「イザベラ様の手紙によると、このごろはご体調が優れず、すっかり心も弱くなり、来年はこの世におらぬかも知れぬ、最後の逢瀬になるやも知れぬからカイは必ず来てくれるようにと」 「そんなに身体が弱ってるなら、少し大人しくしたら、どうなんだろうなー。スルジェの船が片っ端からイシュタルの船に襲われる、てスルジェの商人たちが嘆いてたぞ」 「確かにこのところ派手にやってらっしゃるね」 「オレに護衛を頼みたいけれど、きっとイシュタル女王と昵懇の海賊王子殿は受けて下さるまい、と笑っていた。婆さまが事あるごとにオレをイシュタルに呼んでは仲のよさを詩人たちに歌わせてるのも、なるほど政治的に意味あるんだなあ、と」 「イザベラ様は、超のつく節約家で、現実家だ。意味のないことはなさらない。ただただ美しいから、とカイを舞踏会に呼んでいるわけではないさ」 「ホント、ぬかりないよなあ」 「カイー、女王様、仲良シー?」  ルシエルが若い主人の顔を覗き込んでいる。 「んー、好きか嫌いかとかれれば、あの豪胆さは嫌いじゃあないんだが、何しろ押しが強すぎて……逢うと、精力持ってかれそうで、疲れる……」 「カイ。負ケテルノー」 「そりゃ、オレが生まれる前から、女王様やってる御仁だからなー」  レンティア自慢の海賊王子は、相変わらずの呑気者だ。  彼が誰かと恋に落ちた、というだけで、世の中は沸くが、カイは世間の関心なぞ、何処吹く風だ。
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