その1

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その1

「嫌~!」 「ふうちゃん、好き嫌い言わないで何でも食べなきゃ大きくなれないわよ」 「ピーマン苦いから嫌!」 もう、頑固な子ね……いったい誰に似たのかしら。 こうなったら絶対に譲らないのよね……。 「じゃあ、これはママが食べるから、ふうちゃんには美味しい美味しいハンバーグを作ってあげるわね」 「本当? わ~い」 ミンチ肉を使えば結構誤魔化せるんじゃないかしら? ピーマンの肉詰めじゃまだまだ苦さが誤魔化せないと思うから、もっとお肉の比率を増やしてハンバーグに近い状態にしなきゃね。 あとは少しスパイスを強めにして、デミグラスソースもたっぷり掛けて……。 完成~! これなら大丈夫でしょ。 「は~い、ふうちゃんお待たせ~」 「……」 「ど、どうしたのかな~? いつもと同じハンバーグよ~、美味しそうでしょ~?」 「……」 うわ~、凄い見てる。  バレたりしないわよね? 食べてくれるわよね? 「ママの嘘つき! 裏にピーマンくっついてるし! こんなのいらない!」 「あれ~? おかしいわね~、いつの間にくっついちゃったのかしら?」 あ~、見つかっちゃった。 そりゃそうか、貼り付けてるだけなんだから引っくり返したらバレちゃうわよね。 六歳児の洞察力を舐めてたわ……。 じゃあ次はどうしようかしら。 揚げても焼いても、ピーマンって存在感があるものね。 あの存在感を消すくらい小さく刻んで……。 でもそんなに小さくして使える料理って何かある? ……。 ……。 そうだ! いい事考えちゃた~。 これなら絶対に食べてくれる筈よ。 「もう! ピーマンいっぱい入ってるし! 要らない要らない要らない!」 ああ、お箸で摘まめないくらい細かくしたのに、そんな物まで持ち出して取っちゃうなんて。 我が娘ながらその集中力は恐れ入るわ。 でもこうなったら最後の手段よ。 色も味も完全に消し去って、他の食材と区別がつかなくしてやるわ。 これで駄目ならもう私には……。 あ! ああ! 娘がお箸でピーマンを摘まんでくれてる! しかもそのままお口に運んで噛んでくれてる! やった……やったわ! 私はついにやったのね! 娘の力強い咀嚼姿に感動の涙が止まらないわ! これでもう思い残す事は……。 ううん、戦いはまだ始まったばかりじゃない。 次はアレとアレと……あと冷蔵庫にアレが残ってた筈だから、この三つを食べてもらえるようにしなきゃね。 よ~し、頑張るわよ!
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