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時は15世紀、ヴァロワ朝第5代当主シャルル7世は戴冠後初の食事に舌鼓を打っていた。
彼は柔らかなパンの食感、そして名実共にフランスの王として君臨できる喜びとを同時に噛み締めていた。しかし、至福の時間に水を指す不快な音が王の耳に届いた。
カチャカチャ、ピチャピチャ、ズズズ・・。
王は思わず眼前の少女を睨みつける。しかし、スープに夢中になっている彼女は国の最高権力者の視線に気づきもしなかった。
マナーも知らぬ小娘が、と王は内心毒づいた。だが、この少女を食事の席に招いたのは彼自身である。叱責するのも気が引けるというものだ。
少女の名はジャンヌ・ダルク。憎きイングランドを退け、シャルル7世の戴冠を可能にした英雄である。
この食事会は言わば彼女への礼のようなものだった。牛飼いの娘が当代の国王と食事を共にするというのはシャルル7世の基準で言えば紛れもなく奇跡であり、ジャンヌにとってもこの上ない栄誉であろうと彼は考えたのである。
だが、そんな気まぐれを起こした己を王は呪っていた。
団子っ鼻を中心に展開される地味な相貌も、卑しさしか感じられない食べ方も気に食わない。全てにおいて美しく完璧なこの邸で、今はジャンヌが唯一最大の瑕となっていた。
所詮は農民の娘か、と王は静かに溜息をつく。と同時に、何を当たり前のことをと己に呆れた。そういう、平凡で卑しい娘を救世主に仕立て上げたのが朕ではないかと。
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