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そして彼女は駆け出した
「え」
リズが呟く。
「さぁ、立ち話もなんだから、中に入りましょう、リズ。」
リズはもう、その言葉を聞いていなかった
リュックを背負ったままくるりと後ろを向き、そのまま門の向こうへ駆け出す。
なんのあてもなかった。根拠も何もなかった。
ただなんとなく、その行方不明の教授が、あの変人教授のような気がして堪らないのだ。
「リズ!?どうし…」
「ごめん、おばあちゃん!ちょっと帰りが遅くなりそう!」
それだけ言って駆け出した。
自分勝手であることは重々承知していたが、それでも足は止まらなかった。
………
「あ、リズさん!来てたんだ…」
「一ノ瀬!」
いいものを見つけたとばかりに、リズがその声の主の方を振り返る。
当然、その声の主__一ノ瀬は驚いて大きく仰け反り、あやうくこけそうになっていた。
「えっ何すかいきなり!?なんか息荒くないすか!?大丈夫っすか!?」
一ノ瀬ハルカは、顔立ちは整っているものの、良くも悪くも凡庸な男だった。特にその黒い瞳からは、彼の自信のなさが顕著に伝わってくる。
彼はここの学生で、リズとは長い休みで祖母の家に顔を出すのに何回か会ったことがある。
何か、知っているかもしれない。そう思い、リズは口を開いた。
「ねぇ、一ノ瀬。この辺である教授が行方不明だってこと、知ってる?」
紅の瞳が、どんな嘘も見逃さないと言わんばかりに一ノ瀬を凝視する。可哀想なことに、彼女のその瞳の前の彼はすっかり蛇に睨まれた蛙のようだった。
「は、はい……一応は、まぁ……」
この辺じゃ、だいぶ噂になっていますから……と、そう付け加える。
「じゃあとりあえず知ってること話してくれない?」
どこかどす黒くも思えるリズのにっこりとした恐ろしい笑顔の前に、睨まれた蛙に残された選択肢は、はいかyesのどちらかしかなかった。
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