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早朝の澄みきったひんやりとした空気が、ベールのように薄く白い色を纏っている。
停車している電車は、涼風と立花を乗せるとすぐに扉が閉まり走り出した。
始発から2、3本目の車内はほとんど客の姿が見えない。
全く人のいない車両まで移り、その席へ腰を下ろした。
何から話せばいいのだろう。
探しても適切な言葉が見つからなくて、ただ黙って目の前の景色を追っていた。
「……ごめん」
「涼風さんは、何も悪くないです」
「前に、何かあるなら話して欲しいって言ったこと。……簡単に言えるわけないよな。俺が軽率だった」
命令とはいえ、立花が多くの男達に身体を売っていたこと、養子として迎えられた先で、包海の男達に慰みものにされていたこと。
涼風は全部知ったうえで、何よりも大切なものを犠牲にして救いだしてくれたのだ。
──こんなに……好きになるつもりじゃなかった。
『俺と同じ気持ちで……本当によかった』
とくん、と鳴った鼓動を信じきれなかった。
涼風と自分の気持ちに嘘を吐き続けてきた。
もし立花が包海家のことをもっと早く相談していたら、こんな形の結末に行き着かなかったのかもしれないのに。
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