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「僕は、ずっと涼風さんを裏切っていました。……好きになる資格なんてない」
「立花君は被害者だ。俺は裏切ったとは思ってない」
繋いだ手をさらに深く握り直して、涼風はきっぱりと言う。
立花がどこにも行かないように、強く痛いくらいに。
優しい涼風に、優しい言葉を言わせている。
どうしたって涼風を困らせることしか出来なくて、そんな自分が嫌で、気付けばぽろぽろと大粒の涙を溢していた。
「り、立花君? ……辛いこと、思い出させたかな」
癖のあるふんわりとした甘栗色の髪を、地肌に触れないような軽さで撫でて、肩に寄りかからせてくれる。
「最初に会ったのも、ここだったよね。……アルファの本能とでも言うのかな。立花君を初めて見たとき、この子がきっと運命の番なのだと思った。……でも、立花君は俺を嫌悪してたよね」
「……アルファは皆、オメガに酷いことをすると思っていたから。で、でも! 今は涼風さんは同じじゃないって分かります」
涼風も最初は運命の番という存在を信じていなかったという。
非論理的な事象はれっきとした裏付けがない限りは、証明しようがない──彼らしい考え方だ。
立花だって運命を信用していなかった。
目が合った瞬間に電撃が落ちたような、そんな恋の錯覚に陥るものだと思っていたのだ。
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