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立花は涼風の背中に手を回して、しがみつくようにしながら体温を分け合っていた。
「……ちょっと、もったいないなって思います」
「何が?」
思考を巡らせていた先の疑問だけが、口から出ていた。涼風は不思議そうに立花を見つめている。
「初めて涼風さんの部屋に来たときのこと、全然覚えてない。思い出したくても出来ないんです。……だから、何で覚えてないんだろうって、過去の自分にむかついてました」
自身に悪態をつくと、はあ、と溜め息をついた。
透明感の強いふわふわとした雰囲気の立花が、性格の悪い言葉を使うのを聞いて、涼風は笑った。
オメガのフェロモンにあてられないように、すぐに立花を浴室へ閉じ込めたことも、記憶から抜けているのだ。
2人きりだから、気持ちを確かめ合った後だから、涼風はやたらべたべたと髪や身体に触れてくる。
すごく嬉しいけれど、身なりを気にしてしまう。
「お風呂に入りたい」とお願いすると、涼風は急に慌てた様子で「えっと、それは……」なんて意味のない単語ばかりを並べる。
自分を助け出してくれたヒーローが、今は頼りなく視線をうろうろとさせて顔を赤く染めている。
どうして涼風がそんなに頼りなさげにしているのか、立花も後でようやく気付いて同じように赤面した。
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