1892人が本棚に入れています
本棚に追加
覚えている、立花が誰よりも知っている声と顔が近くにあるのに、分かりきった単純な問いかけを自身に向けてしまう。
ざわざわして汚く逆立っていた心は、自然な形に戻っていく。
男は立花の腕を乱暴に振り払うと、涼風と対峙する。
ぴりぴりした空気を肌で感じながらも、立花は「もう、大丈夫です」と涼風に訴えた。
控えめに裾を摘まむけれど、涼風も相手も互いに引く様子はない。
「へぇー! 君アルファなんだ。地味だからよく分からなかったよ。立花君もかわいそうだなぁ。こんな冴えない男となんて」
「勝手に馴れ馴れしく名前を呼ぶなよ。不愉快だからそろそろ消えてくれないか」
「あれ? 地味で冴えないのは否定しないんだ? もしかして図星だった?」
自分だけならまだしも、涼風を侮辱されるのは到底許せない。
テーブルの上には、立花が運んできた熱いコーヒーの入ったカップと、氷が溶けてよく冷えた水のグラスがある。
空にした思考でそれらに手を伸ばしかけた。
やんわりと手の甲に、涼風の大きな手が重ねられて、立花ははっと我に返る。
立花に優しく触れる一方で、「馬鹿馬鹿しい」と目の前の男に吐き捨てた。
最初のコメントを投稿しよう!