* Scent.7 *

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覚えている、立花が誰よりも知っている声と顔が近くにあるのに、分かりきった単純な問いかけを自身に向けてしまう。 ざわざわして汚く逆立っていた心は、自然な形に戻っていく。 男は立花の腕を乱暴に振り払うと、涼風と対峙する。 ぴりぴりした空気を肌で感じながらも、立花は「もう、大丈夫です」と涼風に訴えた。 控えめに裾を摘まむけれど、涼風も相手も互いに引く様子はない。 「へぇー! 君アルファなんだ。地味だからよく分からなかったよ。立花君もかわいそうだなぁ。こんな冴えない男となんて」 「勝手に馴れ馴れしく名前を呼ぶなよ。不愉快だからそろそろ消えてくれないか」 「あれ? 地味で冴えないのは否定しないんだ? もしかして図星だった?」 自分だけならまだしも、涼風を侮辱されるのは到底許せない。 テーブルの上には、立花が運んできた熱いコーヒーの入ったカップと、氷が溶けてよく冷えた水のグラスがある。 空にした思考でそれらに手を伸ばしかけた。 やんわりと手の甲に、涼風の大きな手が重ねられて、立花ははっと我に返る。 立花に優しく触れる一方で、「馬鹿馬鹿しい」と目の前の男に吐き捨てた。
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