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側にいる涼風は冷たく青い瞳で射返し、男の目は警戒の色を示した。
──この匂い、好きじゃない……涼風さんの、なのに。
アルファは他の性だけではなく、同属の中でさえも優劣や階級をつけようとする。
生産性に長けたオメガを引き寄せるための、習性だ。
おっとりとした印象を与える二重幅の広い両目をともに眇めると、男は悔し紛れに舌打ちをして出ていってしまった。
「あの、涼風さんは、どうしてここに……?」
「仕事が早く終わったんだよ。立花君にすぐに話したいことがあったから来たんだ。……まさか、毎日ああいうふうに誘われてる訳じゃないよな?」
「ち、違います。最近は来てなかったんですけど……」
「最近?」
立花の言葉をそのまま拾い上げて、涼風が問う。
嘘をついている訳ではないけれど、後ろめたい気持ちが勝ってしまい、言葉を詰まらせる。
「あのー……大丈夫っすか。涼風さん?」
駆けつけた小柴に名前を呼ばれて、2人は一斉に振り向いた。
「えっ、え?」と混乱する小柴に、涼風はすみませんと頭を下げ、立花の身内だと説明する。
涼風が職場にやって来ることは1つも想定していなかっただけに、立花は終始落ち着きなくあわあわしていた。
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