* Scent.7 *

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客につけられていた過程はどうであれ、そうしたら手を出した立花の責任になっていた。 大好きな仕事を辞める結果になっていたかもしれない。深刻な顔をして話す立花を、涼風は堪えきれない様子でふっと笑った。 まさかそんなふうに返されるとは思ってもみなくて、立花は目をぱちくりとさせる。 「立花君が水を引っかけるところ、本音を言うと見たかったけどね。でもきっと、そうするのは立花君のためにならないと思ったから。……ごめん。俺の身勝手だったかな」 いつだって自分のことを考えてくれている。涼風は優しい。 「……ううん。止めてくれてよかったです。僕はつい感情的になることが多いのに、涼風さんはいつも冷静ですごいと思います」 「冷静? 腹が立って仕方なかったよ。一発殴るだけじゃ気が済まない」 「そいつ、中高は少林寺習ってたから強いぜ。喧嘩になったら絶対に勝てない」 向かい合う2人に声がかかる。雑誌を持った福井が「よう」と短く挨拶をして、涼風の隣の席へ座った。 「涼風さん、喧嘩……強いんですね。見た目からは全然想像出来ないです」 立花がそう言うと、涼風は何故かふてくされた表情をする。 「勘違いされてるだろ。好きで習ってたんだから、喧嘩と一緒にするなよ」 「そうだっけ? まあ、喧嘩が強いのは事実じゃん」
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