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「えっ、え……僕は、何も」
「毎日美味しいご飯をつくってくれてるだろう。あと、俺がデスクで寝落ちてるときに布団かけてくれたりとか、玄関先まで迎えに来てくれるのとか」
わ、わ、と立花は首筋まですっかり赤くしながら、言葉にならない声を漏らした。
どうしていつも、心の準備が出来ていないのに、涼風はいきなり恥ずかしいことを言うのだろう。
「全部、普通のことですよ?」
「俺には普通じゃない。だからね、毎日そうしてくれるのがすごく嬉しい」
「う、うん……これからも頑張ります」
突っ込み不在のなか、立花と涼風は互いに視線を交わした。
直接触れ合っている訳でもないのに、身体の奥から熱が生まれる。
2人の空気の外で福井は呆れた顔をつくり、「じゃあな」と短く告げて席を立った。
立花はその声に弾かれるようにして椅子から立ち上がり、福井の背に向かって礼を言った。
「ありがとうございました。僕なんかを、気にかけてくれて」
「別に大したことじゃない。それに、お前の恩人は郁だ。そういうことは全部、あいつに言ってやれ」
福井は頭上で手をひらひらと振って退店する。その間も立花はずっと頭を上げようとしなかった。
涼風とともにしばらくカフェの中で近況について語り合った後、そろそろと立花達も立ち上がった。
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