* Scent.7 *

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日差しが幾分か和らいでくる夕暮れ時。 今日は外で食べよう、という提案に頷き、海沿いのビアを探した。 綺麗な砂浜と室内にいても聞こえる波の音、別宅として使われる、大きなバルコニーつきのコテージが並んだ風景は、いつ見ても美しい。 白木は海の果てよりも遠いところにいる、オレンジ色の日と同じように、染め上げられている。 引っ越してから見つけた、夕日の色に包まれるこの景色が好きだ。 立花が最初に見つけて涼風に教えたら、「綺麗だね」と言ってくれた。 立花のものではないのに、つい得意気になって2人に空いた時間が出来れば、こうして歩きながら幸福の時間に浸っている。 地面から30センチ程の防波堤の上に移って、立花はそのまま両手を拡げながら歩いた。 幅は足元ギリギリという訳ではないから、落ちる心配はない。 けれど、頭1つ分下にいる涼風に、隣り合ったほうの手をぎゅっ、と握られている。 いつもより力強く、痛いくらいに。 加減なんてきっと分かっていない大きな手を見下ろして、立花はそのおかしさにくすくすと笑った。 「あまり無茶はしないで。……もう、君1人の身体じゃないんだから」 真剣な声音となお力を込められる手に、立花は「はぁい」と適当な返事する。
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