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怪我をしたほうの涼風の左手の傷は、目を凝らさないと見えない程にまで回復していた。
「こっちのほうが夕日がよく見えるんです。ね、だから、涼風さんも」
「立花君はいつになったら俺を名前で呼んでくれるの」
「え……? だ、だって。気軽に呼べない……」
立花は5歳の年の差を言い訳に、涼風を最初に会った頃と同じ呼び方をしている。
確かに涼風の言うとおり、自分の姓も涼風になったのだから、パートナーを名前で呼ばないのは端から見ればおかしいのだとは思うのだけれど。
──『俺と家族になって欲しい』
修論が通り、卒業が確定したすぐ後に、涼風は宣言したようにお洒落な店で指輪も用意して、立花にそう言った。
早急だったが、包海の名前を使っている立花の身を案じてくれたのだろう。
涼風の名前をもらえること、何よりも自分が1番に欲していた家族を、1番好きな人とこれからつくることが出来る。
家族になったら、お互いの不満はきちんと言うこと……それが涼風とした約束だ。
「まさかとは思うけど俺の名前、忘れてないよね?」
「そんなことないです! ……涼風さんだって、たくさん無茶してますよ。家でも仕事だし、倒れないか心配です」
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