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* Scent.1 *
「アルファもオメガもベータも、みんな平等に生きられる優しい世界なればいいな、って思います」
あの頃は生きている世界の根源なんて、まだ何も知らない純粋な子供だった。
立花は1枚の原稿用紙に詰められた文字を、何の感傷もなく読み上げる。
教室の後ろにいる母親達はお互いにひそひそと何か言い合っていて、前方の担任教師と周りのクラスメートは、くすくすと笑い出す。
──今すぐ消えたい気分だ。
マイノリティの意見は尊重されずに死んでいく。
マイノリティの性であるオメガの立花は、「終わりです」と発表を途中で切り上げて席に座った。
恥ずかしい気持ちよりも、やるせなさと理解されない痛みに、かっと目の奥が熱くなる。
原稿用紙に涙がぽたりと落ちて滲んでいった。
重苦しい空気をうち破るように、隣で拍手が起こった。
小さな称賛が立花を余計に惨めにさせる。
くしゃりと手の中の紙を丸めて、無造作に机の袖にしまう。
担任は立花の意見を肯定も否定もすることなく、参観日用のプレゼンテーションのような授業を続けた。
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