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なんてったって
「キヨちゃん」
日曜日のうららかな朝、清香が洗濯物を干していたら隣の家に住む82歳になる山脇が庭先から顔を出した。
「あらおじさん。今日もいい天気だねー」
「おぉ、風が気持ちいいな」
夏と訣別した涼やかな風が庭の樹木に秋を呼び、縁側を掃くように吹き込んでくる。
山脇が出てくるといつものように長話になることを想定し、清香はお盆に緑茶を2つ乗せて縁側に腰を下ろした。
「ハルちゃんは糸電話使い始めたかい?」
「あー、昨日届いてお父さんの顔貼っつけてやったよ」
「俺もよ、やったよ。無償だっていうから頼んでさ。設定は〝おまかせスタッフ〟に頼んでやってもらって」
「おじさん飲んで。あったかいうちに」
「ありがと。……で、ハルちゃんいないの?」
「うん、今買い物行ってる。タイムセールがあるらしくてね」
「いやっははは……元気でいーわい」
「おじさんは誰と糸電話したの?」
「俺ァ戦死した弟と2年前に亡くなったワンコのタロウだよ」
「え。犬とも話できるの?」
「おぅ。写真貼ったらちゃんとワンワンって出て来てくれたよ。懐かしかったなぁ。タロウも俺の声聞いて喜んだと思うよ」
「へぇ、それは凄いね。弟さんとも色々話せたの?」
「まぁ、あいつの場合は時が止まっちゃってっからよ、今の時代を言ってもよくわかんねぇみたいだ。でも昔話は懐かしさが湧いてきてな、涙チョチョぎれた、ハハッ」
山脇が薄く笑う表情には、行き場を失った寂しく切ない気持ちが滲み出ていた。
「しかし技術の進歩って凄いよな。何てったって故人と話しが出来るっつうんだから」
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