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起(2)ファミリーの危機
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよボス! まさか、お姫様をさらっちまったんですかい!? そんなことしたら、"王宮戦士"が黙ってませんぜ!! 一騎当千のバケモノ共になんて、勝てるわけがねぇ!! ファミリーごと潰されちまう!!」
「慌てるなザック。ワシもクライアントもそこまで馬鹿じゃねぇ。捕まえた"ケモノビト"は、確かに"王国"からさらってきたが、王室とは関係ねぇよ。つまり、二匹目の"ケモノビト"ってことだ」
「そりゃあ一体、どういうことです?」
「捕まえてきた人狩りの話によると、森の奧で年老いた女と二人きりで、誰にも知られず暮らしていたらしい。人里に出るときも赤頭巾と長いスカートで耳と尻尾を隠してたから、誰も気付いて無くてな。旅人のフリをして潜り込んでいた人狩りのヤツも、普通の"野薔薇ノ民"をさらったつもりが、とんでもない大当たりを引いちまったってことさ」
「"王国"も知らない"ケモノビト"って事ですかい。そりゃあ……とんでもねぇ儲け話になりますな」
「ああ。だから当然、横取りを企むクソ共が湧いて出てくるわな。クライアントもそれを恐れてな、オークション当日まで貴重な"商品"をウチに預けたわけよ」
「なるほど……で、その"商品"の護衛には誰を?」
「若頭のキュベリだ」
「へぇ~、大した出世だ。あの粋がっているだけの若造が、今じゃ若頭ですかい。オレも年を取るわけですな」
「若い奴の中じゃ、あいつのチームが一番使えそうだったからな。だからキュベリに一任して、誰にも気付かれぬよう隠れ家に潜ませた。もちろん監視役も付けたさ。キュベリが裏切る可能性も十分あるからな」
「賢明な判断ですな。で、どうなりました」
「キュベリの部下が裏切りやがった」
「部下が……ですかい。キュキュベリベリのヤツ、意外とアレですな。部下の信頼は厚いと思ってたんですが」
「金目当てか、元からスパイだったのか。詳細は分からんが、"商品"を持ち出そうとする輩が次々と現れてな。キュベリのヤツは見せしめを兼ねて、部下の前で処刑するんだが、それでも毎日のように裏切り者が現れる。報告を聞いて業を煮やしたジェイクがな、『キュベリのチームを引き締めて来る』と言って、隠れ家に向かったんだが……」
「今度は兄貴が"商品"を奪って逃げた……」
「ああ。そう言うことだ。あの隠れ家で何が起きたのか、ジェイクのヤツが何を考えているのか、ワシにはさっぱり分からねぇ。一つだけはっきりしているのは、"商品"を取り戻せなければ、ワシもファミリーも終わりだって事だ。これだけは確実に訪れちまう。禁酒も禁煙も虚しくなるってもんだ」
「オレに兄貴を殺せってことですかい?」
「たとえナンバー2だろうが、裏切り者は殺さねぇと若い衆に示しがつかねぇ。が、何より優先しなきゃならんのは"商品"の奪還だ。それ以外の事はお前の判断に任せるさ。そもそも最初からジェイクを殺す気なら、弟分のお前をわざわざ呼んだりはしねぇっての」
「ありがてぇ。感謝しますぜ。で、兄貴は今どこに?」
「隠れ家から馬車を乗り継いで逃げ回り、今は"コンゴウ"の南側にある雑木林に身を隠しているって話だ。キュベリの追撃チームと合流してくれ。ファミリーの命運はお前の肩にかかってる。頼んだぞザック」
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