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承(4)ジェイクの痕跡
突然、マンモスの胸元が点滅する。
「お、おい、マンモス坊や! 何が光ってるんだよ!」
「え? ……ああ、水晶玉ですわ。きっと若頭からの連絡です」
そう言うと、マンモスは懐から携帯サイズの水晶玉を取り出す。すると水晶玉は点滅を止め、キュベリの顔が浮かび上がった。
「マンモス! 定時連絡はどうしたの! とっくに一時間は過ぎているけど?」
「す、すいません! 若頭!」
「まったく、使えないグズねっ!」
萎縮するマンモスに代わり、ザックが返事をする。
「悪りぃキュベリ、オレのせいだ。ちょうど大熊と出くわしてな。倒すのに手こずっちまって、連絡どころじゃなかったんだ」
「大熊ぁ? ザックさんが?」
「ああ。いつもは人間相手で、ケモノは久々だったからな」
「はあ……。それでは仕方ありませんけど……次はちゃんとお願いしますよ」
「ああ、わかってる。わかってるさ。お前らも不用心に林には入るなよ。夜のケモノは結構厄介だからな」
いぶかしげな顔を見せつつ、水晶玉からキュベリが消える。
水晶玉を懐にしまうと、マンモスは神妙な面持ちでザックを見つめる。
「あの…ザックさん。どうして大熊なんて嘘をついてまで、かばってくれたんです?」
「オレは意味も無く人に貸しを作るのが大好きな男でね。ようするにただの気まぐれだ。気にするな。それに大熊ってのは、あながち嘘でもないんだぜ」
そう言うと、ザックは正面を指さした。マンモスはカンテラを向けるが草木が照らされるだけで、気になる物は見あたらない。
「なんだい、坊やは夜目がきかねぇのかい。じゃあ、もう少し近づいてみようかね」
そう言うと、ザックは指さした方向へと歩みを進めた。マンモスも慌ててついて行くと、前進する度に血なま臭くなっていくのが分かる。
「ザ、ザックさん……この臭いって……」
「大丈夫だ。臭いのは仕方ねぇが、危険は無ぇよ。死人使いでもいれば別だがな」
程なくして現れたのは、3メートルはあろうかという大熊の屍体だった。
首が切断され、数メートル先に転がっている。屍体はまだ新しい。殺されて1~2時間といったところだろうか?
「ザ、ザックさん……一体、誰がこんな事を?」
「十中八九間違いないだろうぜ。見なよ、その足下」
マンモスが地面を照らすと、ぬかるんだ地面に二つの足跡が残っていた。成人男子を思わせる大きな靴跡と、幼い子供と思われる小さな足跡だ。
「なあマンモス坊や。"商品"は裸足だったか?」
「へい。確かカンタァが、そんな事を話してやした」
「確定だな」
「じゃあこれは……ジェイクさんがやったんですか?」
「ジェイクの兄貴はオレのナイフの師匠なんだぜ。これくらいならお手のもんさね」
そう言いながらも、ザックは内心驚いていた。この首の切断面のなんたる鮮やかさか! ファミリー運営のために現場から退いて20年余り。にもかかわらず、ジェイクの腕前は変わらない。いや、むしろ以前にも増して腕を上げている?
「へへっ、まったく怖い人だ。流石はオレの兄貴だぜ」
ザックは、ナイフ使いの殺し屋としての自信が揺らぎかけていた。
「それでザックさん、これからどこへ向かうんで?」
二つの足跡が向かう方角。ザックはその先にある物に、心当たりがあった。
「オレと兄貴の、ガキの頃の思い出の場所さ」
「思い出の場所……ですか?」
「ガングワルド風に言うなら、"ひみつきち"ってヤツよ」
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