転(7)兄貴!? あんたもか!?

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転(7)兄貴!? あんたもか!?

「ちょっ……ちょっと待ってくれ、兄貴! もしかして今の話……」  ザックは喉の奥から出かかった言葉を、すんでの所で飲み込む。嫌な予感がした。正直、確かめるのが怖かった。しかし、先に進むにはそれしかない。ザックは勇気を振り絞り、ジェイクに問う。 「今の例え話……。もしかして"商品"と関係あるのか?」  するとジェイクは真剣な面持ちになると、言い放った。 「"商品"じゃない! モナカちゃんだ!」  …  ……  嗚呼………  なんてこったい………  ザックは思わず頭を抱え、心の中でむせび泣く。  くそっ! くそっ! くそっ!  恐れていたことが現実となってしまった。  オレの尊敬する、クールでハードなジェイクの兄貴がっ! 紳士として振る舞いながらも必要とあらば女子供とて容赦ない"ジェノサイド・ジェントル・ジェイク"がっ! 小娘を"ちゃん"付けだとっ! なんて軟弱な言葉を吐き出すんだっ!  こんな事ありえねぇっ! あっちゃいけないんだっ! これは夢なのか? 悪夢を見ているのかっ?  何がそうさせたっ! 誰の仕業なんだっ! やはり呪いか! 呪いがそうさせるのかっ?  ザックが心の中で悶絶していると、ジェイクは続けてこう言い放った。 「一つ言っておくぞ、ザック!」 「な、なんだよ兄貴」 「もし今度モナカちゃんを"商品"と呼んだら、これっきりだからな。説得タイムは終わりだ。二度と口をきいてやらん」 「なっ……」 「返事はどうしたザック」 「わ、わ、分かった……」  キュベリと同じだ。いや、症状は多分キュベリよりも酷い。  あくまで仮説に過ぎなかった『呪い説』が、いよいよもって現実味を帯びてきた。  何とかしてジェイクを正気に戻したいが、ザックに解呪の決定打は無かった。しかし、手が無いわけではない。  呪われている事をジェイクが自覚すれば、多少なりとも抵抗する意志が生まれる。ジェイクほどの男なら、自ら呪いを打ち破るかもしれない。今はジェイクの鉄の意志に賭けるしかない。 「兄貴! 気を落ち着かせて聞いてくれ! 兄貴は今、呪われている可能性がある!」 「呪い? 何の事だ?」 「自分を振り返ってくれ兄貴! あんたは人を"ちゃん"付けで呼ぶような、軽薄な男じゃなかっただろ? キュベリと同じ症状なんだよ! アイツは大の女嫌いなのに、しょうひ……じゃなくて、モナカちゃ……いや、あのケモノビトの娘を、まるで妹のように心配していた」 「お前は何を言っている? 当たり前だろう」 「……え? な、なにが?」 「キュベリはキュベリなりに、モナカちゃんの"にぃに"であろうとしていたんだ。妹を大事に思うに決まっているだろう」  グワ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!  ザックの魂が悲鳴を上げる。  "ちゃん付け"のみならず、よりによって"にぃに"だとおぉぉ!!  聞きたくなかった。そんな幼稚な言葉、兄貴の口から聞きたくなかったぜ……  もはやザックは発狂寸前だった。 「しかし……呪いだと? 今の状況が……呪いで?」  ジェイクの反応が……変わった? 「ザック……お前は、今の私が呪われているというのか?」 「お、おおっ! そうだよ兄貴! その可能性が高いんだ! オレはケモノビトの娘が、呪いのアイテムを持たされていると踏んでる」 「モナカちゃんが持たされている? 呪いのアイテムを?」  呪いを自覚したことで、正気を取り戻したのだろうか? ザックは僅かながら希望が見えてきた。 「ああ、そうなんだ。きっとキュベリや兄貴は、はめられたんだよ!」 「はめられた? はめられた… はめられた、か。言われてみれば、確かにそんな気がする。確かに私は今の今まで、本当の目的を、人生の目標を忘れていた。ザック、それをお前は呪いのせいだと言うのか?」 「ああ、きっとそうだぜ!」 「そうか…。これが呪いか。こんな幸せで、優しい気持ちになれる呪いなら、永遠にかかっていたいものだ」 「何……を、言ってるんだ?」 「ザック。お前に呪いの正体を教えてやろう。それはな、真実の愛だ」 「あ……愛?」 「何もかも捨てて、モナカちゃんの幸せのために全てを捧げる。これぞ"にぃに"の義務なんだよ」  "にぃに"と名乗るには、あまりにも年を取りすぎた男が、優しく微笑んだ。  それはザックが一度も見たことのない、まるで憑き物が堕ちたような、穏やかな微笑みだった。
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