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転(9)真に呪われしは…
ザックは愕然とする。ジェイクとキュベリが呪われていると思っていたら、本当に呪われていたのは自分自身だったのだ。
しかもその呪いは、幼少の頃からすかけられていたという。
「あ、兄貴…。オレはどうすりゃいいんだ」
「ひとまず近づくな。扉の前から動くんじゃない」
「あ…う…す、済まねぇ」
気がつけば数歩、ジェイクの元へと歩み寄っていた。ザックは慌てて後ずさり、扉に張り付く。
「ザックよ。お前は何を望んでいる? 任務の遂行か? ならば呪いを受け入れればいい」
「冗談じゃねぇ。兄貴を殺すような任務なんざ、はなっからお断りだぜ!」
「その呪いに抗うと言うなら、方法は一つ、あるにはある」
「へへっ、兄貴も人が悪いぜ。あるならとっとと教えてくれよ」
「お前が本当の記憶を取り戻す事だ」
「本当の……記憶?」
「ああそうだ。本当の記憶だよ」
困惑するザックだったが、ジェイクは構わず話を続ける。。
「例えばだ。お前の一番古い記憶は何だ?」
「オレの……一番古い?」
ザックは過去に思いを巡らせる。幼少の頃…… 幼い記憶……
「オレは……旅をしていた。兄貴をオレの二人旅さ。辛いけど楽しかった。兄貴となら世界中の何処へだって行ける気がしてたな」
「そうか。それがお前の……」
「ああ、大切な思い出さ」
ジェイクは少しの間黙り、そして話しを続ける。
「無粋なことを言うようで恐縮だが、それ自体が偽りの記憶だ」
「なっ!? そ、そんな馬鹿な。アレが全部偽物だって言うのかっ!?」
「いいや。全てではないさ。確かに私とお前は一緒に旅をしていた。足の遅いお前は『待ってくれよ兄貴』と、泣きべそかきながら追い掛けてきてたものさ」
「じゃ、じゃあ、何が偽りだって言うんだい」
「二人旅では無かったのだよ。他にも仲間がいたんだ」
「な、仲間? オレ達以外に? そんな馬鹿な……いや、待てよ?」
その時、ザックの記憶に変化が起きた。幼いザックが少年ジェイクの顔を見ようと見上げると、隣に誰かいるのだ。しかし顔には靄がかかり、体もボンヤリしていて正体が分からない。ただ、邪悪ではないことは分かる。とても穏やかで、暖かな存在だった。
「どうしたザック。何か思い出したか?」
「だめだ。思い出せねぇ。誰か、何か、天使みたいなのが兄貴の隣にいたようなんだが……」
「天使? フフ…… お前にはそう見えていたのか。なるほどな。確かにそうかもしれない。もしかしたら本当に天使だったのかもな」
「そりゃ一体、誰なんだ?」
「ここからは自分で思い出すんだよ」
「そりゃ無いぜ兄貴」
「私が話せるのは私の記憶だ。話したところで私の記憶の押しつけにしかならない。お前の呪いを解きたければ、お前自身が、お前の記憶を取り戻すしかないんだ」
「そう言われても……どうすれば……」
「ヒントなら、すでに見ているだろう?」
ジェイクはそう言うと、ザックが持ってきた手提げカバンを掲げてみせた。
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