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転(10)“商品”の行く末
「オレと……オレと兄貴で巨大アリを退治したんじゃないのか?」
「無理だな。そもそも、幼いお前に刃物を持たせる訳がないだろう。危ないからな」
「じゃあ、この"ひみつきち"は? オレ達でアリの巣を乗っ取ったんじゃないのか?」
「たった二人で、人が住めるように改造したと? 無理に決まっているだろう。ここはもっと昔からあったのさ。恐らくは山賊か野盗の隠れ家だったんだろう。放棄されて無人だったから、居場所の無かった私達が勝手に住み着いたのさ」
「その後ボスに拾われて……ファミリーの一員になったんじゃ無いのかよ」
「それこそが完全な捏造だよ。あの男にそこまでの器は無い」
ジェイクはザックの記憶の否定こそするが、真実は話さない。真実は自分で思い出さなければ、呪いは解けないのだ。
ヒントは、ジェイクが"ひみつきち"のあちこちに置いていた、子供達の"お宝"。
確かにザックは見覚えがあった。だが、何度考えても思い出せない。靄がかかって邪魔をする。
どうすればいい? どうすれば思い出す?
思い出すためのきっかけはジェイクが用意した。なのにザックは思い出せない。
思い出すには時間がかかるのだろうか? だが、その時間はあまり無い。
ファミリーの命運はこの際どうでもいいが、キュベリ達を待たせたままなのだ。待ちきれなくて暴走しないとも限らない。
今すぐ思い出せないならどうする? どうすればジェイクを殺さずに、事態を収められる?
「そ、そうか!」
「思い出したかザック」
「済まねぇ兄貴。そっちじゃないんだ。丸く収める方法を思いついた」
「ほう? 興味深いな。どんな方法かね」
「兄貴はファミリーを裏切ってない」
「ん?」
「兄貴はしょうひ……じゃなくて、あの子を守るために、一時的に預かっていただけだ。夜明けまでに一緒に戻れば、裏切り者にはならない。裏切り者でなければ、オレにかかった呪いも発動しない。そうだろ?」
「ほう。面白いな。お前にしては賢い時間稼ぎだぞ」
「そう言うことにしてくれ兄貴! オレに時間をくれ! 絶対に思い出してみせるからよ!」
「残念ながら、そうはいかないのさ。私は裏切り者になるしかないんだ。他の選択肢は無い」
「何故だよ兄貴!」
「ザックよ。お前はファミリーが預かっていた娘達が、どんな運命を辿っているのか知っているか?」
「いや……。詳しくは知らねぇが、奴隷商人からの預かりものだし、奴隷として売られるんじゃないのか?」
「ただの奴隷をわざわざファミリーで預かると思うか?」
「だったら、もしかして"姫奴隷"か?」
一般的に奴隷に求められるのは、労働力か性処理である。だが、"姫奴隷"はどちらでもない。
社会的に大成功を収めながら、心が満たされぬまま老後を向かえた大富豪が、一心不乱に愛情を注ぐためだけに存在するのだ。
綺麗な服を着せられ、美味しい御馳走を食べさせられ、対価として笑顔を振りまき、感謝の言葉を唱える。
主人のあらゆる要望に応え、時には孫として甘え、時には子供として慕い、時には妾として受け入れる。
分かりやすく言えば、人の姿をしたペットである。
「確かに一時的には"姫奴隷"として扱われるだろうよ。何しろ大切な"ショクザイ"だからな」
ショクザイ? 贖罪? 罪滅ぼし? どういう意味だ?
「済まねぇ兄貴。あの子と罪滅ぼしとどんな関係があるんだ?」
そう言うと、一瞬ジェイクは目を丸くしたあと、嬉しそうに笑い出す。
「ハハハハッ! 違いない。確かに私は罪滅ぼしのためにモナカちゃんを助けることにしたのさ」
そう言うとジェイクは急に真顔になる。
「だけどなザック。私が言いたかったのはそこじゃない」
「うちのファミリーで預かっていた娘達の運命は皆同じ。"食材"さ。御馳走の材料にされるんだよ。"オーガ"共のな」
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