転(11)秘密結社“オーガ”

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転(11)秘密結社“オーガ”

「なんでだ兄貴……。なんでここで人喰いクソ野郎の話が出てくるんだよっ!」  ザックは怒りに打ち震えた。  オトギワルドにおいて、"オーガ"は二つの意味を持つ。  一つは種族としてのオーガ。人型の怪物種である。  性質は凶暴で残酷。人の生肉を好んで食べるとされる。その正体は古代人とも異世界人とも言われるが、真偽は定かではない。  歴史上もっとも有名なのは、大賢者"長靴をはいた猫"によって討伐されたオーガだ。広大な土地と豪奢な城を所有し、土地に住まう人民を支配する領主だった。  大半のオーガは英雄達によって討伐され、歴史の舞台から姿を消して久しい。すでに絶滅したか、残っていても僅かだろう。  もう一つが秘密結社"オーガ"だ。ザックが憤る理由はこちらにある。  歴史の影で暗躍し、世界を裏から操る犯罪組織だ。あらゆる国にシンパがおり、あらゆる組織に構成員が潜り込んでいると言われている。  その規模から歴史に至るまで、多くが謎に包まれており、その深淵に触れれば二度と生きては帰れない。  分かっている事は僅かだ。その結社名が怪物種"オーガ"にあやかっている事。判明している構成員は全て人間である事。そして会合が行われる度、人間料理を食卓に並べていることだ。  奴らは、人間を超越した存在"オーガ"への憧憬から、自らも"オーガ"に近しい存在になるために、人を喰らうのだ。  犯罪組織に属し、長年殺し屋を続けていたザックだったが、そんな彼でも犯罪結社"オーガ"は許し難い存在だった。  そこに、ファミリーが"オーガ"に荷担していた可能性を、ジェイクによって言及されたのだ。今、ザックの心は激しく揺れ動いている。 「うちが預かる娘達ってのは、奴隷市場でオークションにかけられるって話じゃなかったのかい!」 「かけられるさ。オークションに。だが、誰が落札しようと"オーガ"の食材にされちまうのさ。何しろ入札者は全員"オーガ"の構成員だ。オークション自体が茶番なんだよ」 「何でそんな事が分かるんだ。………ま、まさか、ボスも?」 「御名答。あの男も"オーガ"の構成員さ」 「待ってくれ兄貴! ちょっと待ってくれよ兄貴!! もしかして、もしかして……。これまでオレが殺してきた奴らって……」 「察しが良いな。その通りだ」  ザックへの暗殺依頼は、常にボスを介していた。そのボスが"オーガ"の構成員だとするなら、これまでザックが殺してきたターゲットは……  "オーガ"を探るスパイか裏切り者。"オーガ"に仇なす者。"オーガ"にとって都合の悪い存在。  ザックは何も知らぬまま、"オーガ"の手先をやらされていたのだ。 「そしてザックよ。私も秘密を話さねばならない」  嫌な予感がした。何も聞きたくなかった。目をつぶり、耳をふさぎ、どこかに閉じこもっていたかった。だがジェイクは容赦なく告白する。 「私もまた、"オーガ"の構成員なのだよ」
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