転(12)懺悔

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転(12)懺悔

 最も尊敬する兄貴が、最も許し難い犯罪組織"オーガ"の構成員だった?  ジェイクの告白は、ザックの心をズタズタに引き裂いた。  だが、しかし…… 「へへ……。へへへ………。人が悪いぜ兄貴。オレを試す気かい?」 「私が冗談で言っていると思うのか?」 「いいや。クソ真面目な兄貴が言うからには、全部事実なんだろうよ。だが、わざわざ言うからには、あるんだろ? 話す気なんだろ? やらざる負えぬ事情ってヤツをよ」 「フフ……。ザックよ。お前はもう少し、私を疑っていいんだぜ」 「そいつは無理ってもんよ」  ザックのジェイクへの信頼は絶対的だ。その程度の衝撃で砕けたりはしない。 「まったくもってお前の言う通りだよ。聞いてくれザック。私の秘密を話そう。私の過去を話そう。私の真実を話そう」 「ああ、いいぜ。聞かせてくれ」  ジェイクは懺悔をするかのように、静かに語り始めた。 「私が"オーガ"の一員となったのは、"オーガ"へ復讐するためさ。"オーガ"の下部組織に皆殺しにされた、仲間の敵を討つためだった」 「……ちょっと待ってくれ。オレも仲間だろ? 違うのか?」 「お前は弟分だからな。仲間とは違うさ」 「そ、そうか。なるほど。確かにそうだな。腰を折って済まねぇ。続けてくれ」 「仲間を殺され捕らわれた私に、奴らは選択を迫ったんだ。『死んで仲間の後を追うか? 生き延びて"オーガ"に忠誠を誓うか?』とな。青臭い若造だった私は、奴らにとっては脅威でも何でもなかった。暇潰しのゲームのコマに過ぎなかったのさ。  悩んだ末、私は生き延びる道を選んだ。獅子身中の虫になることを選んだ。"オーガ"に忠誠を誓うフリをして中枢に入り込み、内部から滅ぼしてやろうと考えたんだ……」  ザックは、ただただ驚愕していた。秘密結社"オーガ"は、強大ながらも得体が知れない謎の組織だ。表層をどれだけ叩いても組織はビクともしない。本気で潰すなら、内部から滅ぼすしか手は無いだろう。それをジェイクはやっていたというのか。 「いくつかの仕事で結果を残し、それなりの実績を作った私は、今のファミリーへと派遣された。そこで与えられた任務は二つ。ファミリーの経営とボスの監視だ。  "オーガ"の構成員は常に別の構成員に監視され、裏切りの傾向が見られればすぐさま処刑された。私とボスは常に監視し合い、隙あらば裏切り者として処刑するような仲だったのさ。そして処刑を実行するのが、サイコパスの殺し屋に仕立て上げられたザック…お前だったのさ」 「それじゃあ、状況によってはボスをオレの手にかける可能性もあったのか?」 「そう言うことだ」  ジェイクは一度話を止めると、葉巻に火を付け一服する。そして吸い殻を投げ捨てると話を続けた。 「それからは、毎日が地獄だったよ」 「ファミリーで預かる奴隷達は、誰もがディナーとなる運命の、"食材"だった。だが、大いなる目的のためには見過ごすしかなかった。仕方なかったのさ。彼女達は、私が中枢に入り込むために必要な犠牲だった。そう思うしかなかったのさ。  それを私は40年も続けてきた。この40年で犠牲となった娘や子供達は800人を越える。そのおかげで私はついに"オーガ"の次期幹部の1人に推薦された。やっと復讐が果たされる。長年の苦労が報われる。目をつぶっていた奴隷達の犠牲も無駄ではなくなる。そう思っていたのさ。昨日まではな」 「昨日までは? じゃあ、今は違うのか?」 「ああ、今は違う。モナカちゃんに出会ってしまったからな」 「そこで、あの子なのか兄貴……」 「ああそうだ。モナカちゃんだ。  怯えるあの子を見ているうちに、仲間の復讐も、40年もの苦労も、目をつぶってきた800人もの奴隷達の犠牲も、何もかもが無意味になってしまったのさ。  ………いや、違うな。そうじゃない……。そう…、そうだ! そうだよザック!  これまでの40年は、モナカちゃんと出会うためにあったんだ。仲間の死も、多くの犠牲も、私が"にぃに"になるために必要だったのさ!」  興奮し、まくし立てるように話すジェイクは、どこか狂気じみていた。しかし、困惑するザックに気付いたか、ジェイクは落ち着きを取り戻す。 「ああ、取り乱して済まないザック。お前には私が狂っているように見えるかもしれないな。だけど、モナカちゃんを助ける事は決して無意味ではないんだ。"にぃに"として実に腹立たしいが、"オーガ"にしてみれば、モナカちゃんは百年に一度……いや、千年に一度手に入るかどうかも分からない"高級食材"なのさ。もし、奪われる事となれば、どれだけの構成員が責任を取らされるか分かったものじゃない。つまり……」  ジェイクは微笑む。 「モナカちゃんを救うことが、"オーガ"へのまたとない復讐となるのさ。こんなに健全で前向きな復讐があるだろうか? 分かるかザック。私は今、幸せな気持ちでいっぱいなんだよ♪」  遠目に見えるジェイクの微笑みは、とても優しかった。
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