転(16)問い

1/1
前へ
/53ページ
次へ

転(16)問い

 真っ暗で何も見えない。  体は座ったままで動かない。  心が底へ底へと沈んでいく。 「気分はどうかしら、ザックさん?」  誰かが話しかけてくる。どこかで聞いたその声は、何故かとても甘美だった。 「別に…悪かねぇよ…」  突然の大きく響く声に驚く。今のは……オレの声?  不思議なものだ。体はちっとも動かないのに、口は流暢に動くんだな。 「今からいくつか質問するわ。正直に答えてちょうだい」 「別に…構わんよ…」  何故だろう。どんな質問にも答えたくなってくる。  ああ、そうか。これが自白剤ってヤツか。腕に刺さったダーツの針に、たっぷり塗り込められていたんだな。 「モナカちゃんは何処?」  その質問にオレは困惑する。モナカ=チャンとはなんだ? どこかで聞いたはずだが… 「ケモノビトのモナカちゃんよ! 組織では"商品"と呼ばれていたわ!」 「ああ…商品ね…商品…商品…。何処だろうな。分からない…」 「チッ! 弟分すら信用しないとは、流石はナンバー2ね!」  舌打ちや悪態も甘美に聞こえる。 「では質問を変えるわ。ジェイクは何処?」 「ジェイクの兄貴なら…最下の大広間にいるぜ…」 「最下層? そこに脱出ルートはあるの?」 「いや、ここだけだ… 食堂の煙突が唯一の脱出ルートだ…」 「あのジェイクが逃げ場のない最下層に? 一体何故…。もしかして、最下の大広間には隠し部屋があるんじゃないの?」 「ああ、あるぜ… 大広間の一番奥に、オレ達の宝物をしまった隠し部屋がある…」 「ありがとうザックさん♪ おかげでモナカちゃんの居場所、分かっちゃった♪」  そう言うと声の主は、オレの右頬に接吻をしてくる。 「あ、そうだ♪ このまま情報の貰いっぱなしはフェアじゃないわね♪ 冥土の土産に一つだけ質問に答えてあげるわ♪」 「質問……?」 「今貴方は何を気にしてる? 何が気になるの?」  質問…。気になること…。それは…… 「マンモス坊やは…何処に行っちまったんだ…」 「なぁに、あんなボンクラが気になるの? いいわ、教えてあげる♪  あいつにここの入り口を開けさせた後、チームと一緒に外に待たせたわ。爆殺したの♪ 全員を始末するためにね♪ 仮に生き残っても、入り口が塞がっていたら入ってこられないでしょ? つまり、一石二鳥って訳♪」  始末? チームと一緒に? 一体どういうことだ? 「あら? 分からない? じゃあ、ついでに教えてあげるわ♪」 「モナカちゃんの"にぃに"はアタシだけでいい!! アタシだけがあの子を幸せに出来るの!! 他はみんな邪魔なのよ!」  それが理由? そんな理由で、大切な部下を切り捨てた? 正気の沙汰じゃねぇ。  キュベリ…お前… あの商品に、ケモノビトに、狂わされたのか…… 「それじゃザックさん、失礼させていただくわ♪ アタシの毒のカクテル、ゆっくり味わってちょうだい♪」  ドアが閉まり、足音が遠ざかっていく。  真っ暗で何も見えない。  体は座ったままで動かない。  心は更に、底へ底へと沈んでいく。  やがて深淵の闇に包まれ、オレは…何も……
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加