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転(16)問い
真っ暗で何も見えない。
体は座ったままで動かない。
心が底へ底へと沈んでいく。
「気分はどうかしら、ザックさん?」
誰かが話しかけてくる。どこかで聞いたその声は、何故かとても甘美だった。
「別に…悪かねぇよ…」
突然の大きく響く声に驚く。今のは……オレの声?
不思議なものだ。体はちっとも動かないのに、口は流暢に動くんだな。
「今からいくつか質問するわ。正直に答えてちょうだい」
「別に…構わんよ…」
何故だろう。どんな質問にも答えたくなってくる。
ああ、そうか。これが自白剤ってヤツか。腕に刺さったダーツの針に、たっぷり塗り込められていたんだな。
「モナカちゃんは何処?」
その質問にオレは困惑する。モナカ=チャンとはなんだ? どこかで聞いたはずだが…
「ケモノビトのモナカちゃんよ! 組織では"商品"と呼ばれていたわ!」
「ああ…商品ね…商品…商品…。何処だろうな。分からない…」
「チッ! 弟分すら信用しないとは、流石はナンバー2ね!」
舌打ちや悪態も甘美に聞こえる。
「では質問を変えるわ。ジェイクは何処?」
「ジェイクの兄貴なら…最下の大広間にいるぜ…」
「最下層? そこに脱出ルートはあるの?」
「いや、ここだけだ… 食堂の煙突が唯一の脱出ルートだ…」
「あのジェイクが逃げ場のない最下層に? 一体何故…。もしかして、最下の大広間には隠し部屋があるんじゃないの?」
「ああ、あるぜ… 大広間の一番奥に、オレ達の宝物をしまった隠し部屋がある…」
「ありがとうザックさん♪ おかげでモナカちゃんの居場所、分かっちゃった♪」
そう言うと声の主は、オレの右頬に接吻をしてくる。
「あ、そうだ♪ このまま情報の貰いっぱなしはフェアじゃないわね♪ 冥土の土産に一つだけ質問に答えてあげるわ♪」
「質問……?」
「今貴方は何を気にしてる? 何が気になるの?」
質問…。気になること…。それは……
「マンモス坊やは…何処に行っちまったんだ…」
「なぁに、あんなボンクラが気になるの? いいわ、教えてあげる♪
あいつにここの入り口を開けさせた後、チームと一緒に外に待たせたわ。爆殺したの♪ 全員を始末するためにね♪ 仮に生き残っても、入り口が塞がっていたら入ってこられないでしょ? つまり、一石二鳥って訳♪」
始末? チームと一緒に? 一体どういうことだ?
「あら? 分からない? じゃあ、ついでに教えてあげるわ♪」
「モナカちゃんの"にぃに"はアタシだけでいい!! アタシだけがあの子を幸せに出来るの!! 他はみんな邪魔なのよ!」
それが理由? そんな理由で、大切な部下を切り捨てた? 正気の沙汰じゃねぇ。
キュベリ…お前… あの商品に、ケモノビトに、狂わされたのか……
「それじゃザックさん、失礼させていただくわ♪ アタシの毒のカクテル、ゆっくり味わってちょうだい♪」
ドアが閉まり、足音が遠ざかっていく。
真っ暗で何も見えない。
体は座ったままで動かない。
心は更に、底へ底へと沈んでいく。
やがて深淵の闇に包まれ、オレは…何も……
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